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ドイツ語特許翻訳の世界(10)

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トランスユーロ株式会社
代表取締役 加藤 勇樹 

 前回は、鋳造技術についてお話しましたが、今回はドイツ語明細書中で実際にどのように表 現されているのかを例文を挙げてご紹介しておきましょう。

「鋳造する」という意味の動詞はgießen ですが、ドイツ語特有のan-, ein-, mit-, um-, ver- などの前綴りを付けた形で色々な意味でも使用されます。同じ前綴りが付いていても、文意や技術内容によって意味が変わりますので、訳す際には細心の注意が必要ですね。前置詞の役割も重要となりますので気をつけてください。前綴りと前置詞、これぞドイツ語の醍醐味を味わえる重要な要素ですので、語感を研ぎ澄ませて楽しく翻訳しましょう。動詞gießen 過去分詞はgegossenです。特許明細書は基本的に受動形で書かれていますので、文の構造としては受動態を作る助動詞werden(動作受動)またはsein(状態受動)+ 本動詞の過去分詞gegossen の枠構造となります。

・ Der Kolben ist in einem Gießverfahren basierend auf einer verlorenen Form oder ineinem Gießverfahren basierend auf einer Dauerform hergestellt.(WO2015/181229A1)
(ピストンは、使い棄て型をベースとした鋳造法で製造されているか、または永久型をベースとした鋳造法で製造されている)

・ Beim Kokillengießen werden Schmelzen unter dem Einfluss der Schwerkraft oder geringer Drücke in Dauerformen steigend oder fallend vergossen.(WO2015/181229A1)
(金型鋳造の場合、溶湯が、重力または小さな圧力の影響を受けて、永久型内に押し上げ式また は落し込み式に注湯される)
※ vergießen =「注湯する、鋳込む」、steigend =「押し上げ式」、fallend =「落し込み式」

・ Das Gießwerkzeug (die Kokille) muss vor dem Gießen einwandfrei geschlichtet werden. (WO2015/181229A1)
(鋳造工具(金型)は、注湯の前に十分に塗型を施されなければならない)
※ 通常、型には、型表面を熱から保護したり、鋳肌を改善するために、塗装を施します。これを「塗型(schlichten)」と云います。「とがた」と読みます。

・ Der Zylinderkopf 10 wird als Gussbauteil 11 geformt, wobei die Verbindungselemente 18 integral mit dem Zylinderkopf 10 mitgegossen werden.(DE102011017511A1)
(シリンダヘッド10は鋳造部品11として成形され、この場合、結合要素18 はシリンダヘッド 10 と一緒に一体鋳造される)
※ etwas integral mit 3 mitgießen =「を~と一緒に一体鋳造する」



・ Im Bereich der Hinterschneidung 2 wird ein Verbindungsteil 3 an das erste Bauteil 1 angegossen.(EP0936011A1)
(アンダカット部2 の領域で結合部分3 が第1の構成部分1に固着するように鋳造される)
※ etwas an 4 angießen =「を~に固着(溶着)するように鋳造する」

・ In eine Gießform wird dann flüssiges Metall zur Bildung eines Verbindungsteils 3 eingegossen.(EP0936011A1)
(鋳型内には、次いで、結合部分3を形成するために液状の金属が鋳込まれる)
※ etwas in 4 eingießen =「~型内に(溶湯を)鋳込む、~内に注湯する」



(日本鋳物協会編「図解 鋳物用語辞典」、第13 頁、昭和48 年7 月30 日、日刊工業新聞社発行)

・ Die Schmelze wird durch einen Einguss gefüllt und fließt dann über einen Lauf über denAnschnitt in den Formhohlraum.(WO2015/181229A1)
(溶湯は湯口を通じて装入され、次いで湯道を経て堰を介して型空隙部に流入する)
※ Einguss =「湯口」、Lauf =「湯道」、Anschnitt =「堰」


(日本鋳物協会編「図解 鋳物用語辞典」、昭和48 年7 月30 日、日刊工業新聞社発行)

・ Druckgießmaschine zum Umgießen von Blechpaketen.(DE2218770A1)
(成層鉄心を鋳ぐるむためのダイカストマシン)

※ etwas umgießen =「~を鋳ぐるむ」 この場合の前綴りum は「切換」ではなく「取り囲む」「巡る」の意味です。
・ Auf die oben dargestellte Weise kann der Formkörper 9 an den Grundkörper 8 angegossen werden bzw. kann der Grundkörper 8 von dem Formkörper 9 zumindest teilweise umgossen werden.(WO2007/090483A1)
(上で説明したようにして、成形体9を基体8に固着するように鋳造することができるか、もしくは基体8を成形体9によって少なくとも部分的に鋳ぐるむことができる) ※



※ これはどういうことかと言うと、基体8は鋼からなる四角形断面の中空成形品(Vierkant-Hohlprofil)です。成形体9はアルミニウムからなります。製造時には、まず、鋼製の基体8を製作し、これを、成形体9を鋳造するための液体アルミニウムで満たされた鋳型内に部分的に浸します。鋳型内に浸された基体部分は、アルミニウムの溶湯によってくるまれ(umgießen)、アルミニウムの鋳造温度にまで加熱されますが、鋼はアルミニウムよりも高い融点を有するので、基体8溶融しません。次いで、アルミニウムを冷却すると、アルミニウムが凝固して成形体9が出来上がりますが、このときに成形体9は、基体8よりも大きく収縮するので、基体8の、成形体9によってくるまれている部分には、極めて高い圧縮応力が形成されま。アルミニウムが完全に冷却されて凝固すると、この高い圧縮応力により、成形体9と基体8の間には、いわば締まり嵌め(Presspassung)が形成され、両者は摩擦力により強固に結合されるので、いわゆる「摩擦結合(Reibschlussverbindung)」が得られます。こうして、成形体9は基体8に溶着するように鋳造されているか、もしくは基体8は成形体9によって少なくとも部分的に鋳ぐるまれている、と言うことができます。

 そもそも、上記装置は、基板に電子構成部品を装着するためのピック・アンド・プレース式の自動装着装置(Bestückautomat)の装着ヘッド用の位置決めアーム(Positionierarm)5 です。 この位置決めアーム5には、ねじ11によってリニアモータ7 が取り付けられます。従来では、基体8と成形体9との結合にも、ねじ結合(Schraubverbindung)が用いられていたので、遊びが発生し、位置決め精度に悪い影響を与えていました。また、ねじ結合の採用によって重量も増加します。そこで、成形体9を基体8に溶着するように鋳造することにより、結合部は一体化されて遊びがなくなり、重量も軽減されるので、位決め精度を向上させることができる、というわけです。

 さらに、成形体9と基体8との結合を一層強固なものにするためには、下の図にあるように、基体8が成形体9によって鋳ぐるまれる部分に、つば状の構造エレメント10を設けることが考えられます。



 この構造エレメント10は、基体8に、つば状に張り出したエンドプレートとして形成されています。このつば状の構造エレメント10が、成形体9を鋳造するためのアルミニウムで鋳ぐるまれると、つば状に張り出した構造エレメント10の凸断面形状と、これを取り囲む成形体9の凹断面形状との間で凹凸形状同士の係合が生じるので、上記の摩擦結合とともに付加的に形体9と基体8との間に「形状結合(Formschlussverbindung)」が形成されます。こうして、摩擦結合+形状結合のダブル効果により、成形体9と基体8との間の結合は一層強固なものとなります。「摩擦結合」と「形状結合」については、「ドイツ語特許翻訳の世界(3)~(7)」で詳しくご説明しましたね。こんな場面でも、ドイツの明細書では、やはり結合形式規定する概念として「摩擦結合」や「形状結合」が登場するので、ドイツの結合形式の重要性が改めて認識されます。

 以上の例文から判るように、「~に溶着するように鋳造する」「~と一体に鋳造する」「~を鋳ぐるむ」など、訳付けするためには、前綴りと前置詞との関係をきちんと読み取る読解力と、技術内容を裏付ける知識の両方が必要になろうかと思います。また、鋳造技術は古くから存在するので、「鋳」やら「湯」やらを使った古い用語がたくさんあります。「湯道」「湯口」といっても温泉ではありませんので、辞書や技術書を調べて、適確な用語を選び出して使いたいところですね。

次回は、プラスチックのGießen に移りたいと思います。
Vili liebi Gruaess !