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ドイツ語特許翻訳の世界(3)

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トランスユーロ株式会社
代表取締役 加藤 勇樹 

前回は、ドイツ語のWirkverbindung という用語について説明しました。第1の例(可変バルブ機構;特表2015-508859 号参照)も、第2の例(ピエゾインジェクタ;特開2003-328893 号参照)も、「作用結合」と訳されている事例でしたが、類似の訳語「作用接続」についても、特許庁HP 特許情報プラットフォームの「特許・実用新案テキスト検索」において検索をかけてみたところ、400件以上のヒットがありました。そのほとんどがドイツの出願人であることから、同じくWirkverbindung の訳語であると思われます。中にはご丁寧に訳語のうしろに括弧を付けて原語(Wirkverbindung)を挿入しているものもありました(特開2000-57977 号等参照)。これは、その多くが、電気・電子的な技術やハイドロリック的な技術であることを考慮して、「結合」を「接続」に代えただけのものであって、基本的には、前回ご説明した「作用結合」と同じ概念のものです。「作用結合」も「作用接続」も、ドイツの出願の種々様々な分野で多用されているようなので、興味のある方は、ご自分で検索してみるとよでしょう。

さて、今回も引き続き、ドイツ語のVerbindungの謎に迫ります。今回は、ドイツにおける結合技術(Verbindungstechnik)について、少々詳しくお話ししたいと思います。

1.ドイツにおける結合技術の分類について

今回は、互いに接触し合う「結合」(接合)の意味のVerbindung です。ドイツの機械工学では、結合技術を様々なカテゴリに分類しています。その代表的なものを、主に「Fachkunde Kraftfahrzeugtechnik」( 第29 版、2009 年、出版社VERLAG EUROPA-LEHRMITTEL、第137 頁~第138 )というドイツの自動車専門技術書から抜粋して以下にご紹介します。

ドイツの結合技術は、大体において(コレもim wesentlichen です!)、以下のカテゴリに分類されています;
① 可動性に応じた分類(Einteilung nach der Beweglichkeit)
   可動の結合または固定の結合
② 解離可能性に応じた分類(Einteilung nach der Lösbarkeit)
   解離可能な結合または解離不可能な結合
③ 結合原理に応じた分類(Einteilung nach der Verbindungsprinzip)
   形状結合(Formschluss)、摩擦結合(Reibschluss)、材料結合(Stoffschluss)

では、次に、上記の個々のカテゴリについて詳しく見ていきましょう。

1.1 「可動性に応じた分類(Einteilung nach der Beweglichkeit)」

このカテゴリでは、形成された結合が、可動であるのか、または固定であるのか、により分類されます。
 「可動の結合」(Bewegliche Verbindung)
互いに接合された部材は、その互いに相対的な位置を、制限された規定の範囲内で変えることができます。
 「固定の結合」(Feste Verbindung)
互いに接合された部材は、その互いに相対的な位置を変えることができません。

 1.1.1 「可動の結合」
可動の結合を実現している代表的なものは、人間の骨と骨を結合する関節(Gelenk)です。機械機構としては、ボールジョイント(Kugelgelenk)や、ねじ山付きスピンドル・ナット伝動装置(Spindel/Muttergetriebe)などがあります。「可動の結合」の場合、結合された部材は互いに相対的に可動となるように結合されています。その用例として、動詞verbinden(結合する)を使った文章を挙げておきます。
・ Das Bauteil A ist beweglich mit dem Bauteil B verbunden.
  (部材Aは、部材Bに可動に結合されている。)
・ Das Bauteil A ist gelenkig über ein Gelenk mit dem Bauteil B verbunden.
  (部材Aは、ジョイントを介して部材Bに枢着式に結合されている。)

 1.1.2 「固定の結合」
固定の結合とは、たとえばねじ結合(Schraubverbindung)、リベット結合(Nietverbindung)、ピン結合(Stiftverbindung)、プレス結合(Pressverbindung)などです。



上の図にある「Mutter」は、少しドイツ語をかじったことのある人なら、「母親」という意味であることをご存知でしょう。が、残念ながら、この場合のMutterは「ナット」(雌ねじ山を持った締結部材)という意味です。綴りも性(女性名詞)も「母親」のMutterと同じで区別し難いのですが、複数形になったときの形が違い、母親はMütter、ナットはMutternとなります。ちなみに、雄ねじ山を持つ「ねじ」は、Vater(父親)とは言いません。「固定の結合」の場合、結合された部材は互いに相対的に不動となるように結合されています。用例として、動詞verbinden を使った文章を挙げておくと、
・ Das Bauteil A ist drehfest über eine Schraube mit dem Bauteil B verbunden.
  (部材Aは、ねじを介して部材Bに相対回転不能に結合されている。)
※ この場合「drehfest」のfest とは、「固く」という意味です。部材Aは、部材Bに「回転の点で固く」結合されている、ということです。少々ややこしい話になりますが、ようは、部材Bが回転すると、部材Aは部材Bと一緒に回転する、ということです。「一緒に回転する」ということは、部材Aと部材Bとの間に「相対的な回転(回動)は生じない」ことになるので、相対的に見ると、部材Aは部材Bに相対回転(回動)不能に結合されている、と云るわけです。
・ Das Bauteil A ist axial verschiebbar, aber drehfest mit dem Bauteil B verbunden.
  (部材Aは、部材Bに、軸方向に移動可能ではあるが相対回転不能に結合されている。)
※ これも、よく出てくる表現です。軸方向では「可動の結合」であって、周方向では「固定の結合」であるわけです。スプライン結合(Keilwellenverbindung)などは、まさにこの状態となりますね。



 1.2 「解離可能性に応じた分類(Einteilung nach der Lösbarkeit)」

このカテゴリでは、結合が、「解離可能」な結合であるのか、または「解離不可能」な結合であるのか、により分類されます。「解離」とは、一旦形成した結合を解くことです。
  「解離可能な結合」(Lösbare Verbindung)
各部材は、結合後および使用後に、接合要素を損傷させることなく再び解離することができます。品質損失なしに、繰返し結合を形成することが可能です。
  「解離不可能な結合」(Unlösbare Verbindung)
各部材は、結合後および使用後に、一方の接合要素を損傷/破損させることなしには解離することができません。品質損失または部品交換なしには、繰り返し結合を形成することは不可能です。

1.2.1 「解離可能な結合」
解離可能な結合とは、たとえば、ねじ結合(Schraubverbindung)、締付け結合(Klemmverbindung)、摩擦クラッチ(Reibungskupplung)などが挙げられます。たとえばねじ結合であれば、ねじを緩めれば結合を解くことができますね。



1.2.2 「解離不可能な結合」
解離不可能な結合とは、たとえばリベット結合(Nietverbindung)、接着(Klebeverbindung)、 ろう接(Lötverbindung)、溶接(Schweißverbindung)などが挙げられます。たしかに、これ らの結合は、接合要素を破壊しないと解離できませんね。

さて、ドイツの結合技術には、もう一つ、「結合原理に応じた分類(Einteilung nach der Verbindungsprinzip)」という厄介なものがありますが、これは説明するのがかなり面倒なので、次号に回すことにし、今月は、お月様(moonとMond)のお話で締めたいと思います。

萌える男性名詞説
NIPTA ジャーナル133 号(7 月号)の「ドイツ語特許翻訳の世界(1)」において名詞の性について述べた際に、英語では「moon(月)」は女性名詞とみなされ、sheで受けるが、対応するドイツ語の「月(Mond)」は男性名詞であるという話をしました。そして、戦時中ロンドンに潜入したドイツ人スパイが美しい月を見て、うっかり「He is beautiful 」と口を滑らせ、ドイツ人であることが発覚してしまったというエピソードをご紹介しましたね。そこで、なぜドイツ語では月が男性名詞なのか、その最も萌える(?)ロマンティックな説を、連載中のどこかでご紹介したいと申し上げましたが、今月は十五夜もあり、月がとても綺麗な時節であるので、その萌える説をご披露することにします。

実は、月を女性名詞としているのは、英語の他にもフランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語などがあり、比較的多いのですが、男性名詞にしている言語は僅少です。では、なぜドイツ語では月が男性名詞なのか?、その謎を解く鍵は諸説あるようです。その一番尤もらしい説としては、ゲルマン神話においては太陽神が女性、月神が男性であるから、といものがあります。が、私が個人的に一番気に入っているロックな萌え説というのがありまして、これは、実はどこかのブログで読んだ話なのですが、あるときドイツ人の男性に、なぜドイツ語では月は女性名詞ではなく、男性名詞であるのか、と尋ねたそうです。その答えは、ドイツ人男性曰く『あんな真っ暗な夜空に、女性を一人ぼっちにさせておくことがキミにできるのかい?』・・・・これ萌えませんか?