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ドイツ語特許翻訳の世界(5)

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トランスユーロ株式会社
代表取締役 加藤 勇樹 

前回は、ドイツにおける結合技術の「結合原理に応じた分類」(Einteilung nach der Verbindungsprinzip)をご紹介しました。今回からは、この中でも特に審査において度々問題となる Formschluss(形状結合)と Reib-(Kraft)schluss(摩擦結合)の2つに的を絞って、その闇に光を当ててみたいと思います。どういった姿が浮き彫りになるのか楽しみにしてください。

今回、まずご紹介したいのは、formschlüssig と reib(kraft)schlüssig の別の訳し方です。前回はそれぞれ「形状結合」(形状接続)、「摩擦結合」(摩擦接続)という代表的な訳語を使ってご説明しました。ドイツの多くの出願に関しては、だいたいこの訳が主流を占めているようです。対応する英訳は、一般に「form-fit」と「frictional connection」です。しかし、これとは別に formschlüssig を「確動」と訳している事例もかなりあるようです(特開 2012-154486 等)。これは、formschlüssig の英訳の1つである「positive」に起因していると思われます。この場合、positive は「正の」とか「積極的な」という意味ではなく、「確実な」とか「確定的な」と云う意味です。実際に日本の技術用語として「確動カム」(positive cam)とか「確動クラッチ」(positive clutch)という言葉があります。「確動カム」は、ばねなどに頼らず、カムの輪郭(溝など)に従動節を係合させて「確実に運動を伝達する」ようにしたカムであり、「確動クラッチ」は、駆動側の凹凸部と従動側の凸凹部との係合により、やはり「確実に動力を伝達する」ようにしたかみ合いクラッチ(つめクラッチ等)のことです。摩擦クラッチの場合とは異な、滑りは生じません。どちらも、「形状結合」による係合に基づいて滑りなしに確実に動作(確動)する伝動機構と云えます。それに対して、摩擦結合式(kraftschlüssig)のクラッチは「非確動(non positive)」と呼ばれているようです。これは、摩擦クラッチのような摩擦結合式の伝動機構では、連結要素同士の間に滑りが生じるので、運動や動力を100%実に伝達するとは云えない(非確動)からであると思われます。

[formschlüssig]:



[kraftschlüssig]:


 (「WÖRTERBUCH DER INDUSTRIELLEN TECHNIK BAND1」、 出版社 OSCAR BRANDSTETTER VERLAG、第 6 版、2004 年より)


(「図解 機械用語辞典 第3版」1993 年 11 月 30 日、日刊工業新聞社発行/インターネット「日本の国でのものづくり、ひとづくり24.3 かみあいクラッチ」より)

しかし、この「確動」という表現は、かみ合い等の形状結合により達成される伝動機構の1機能を言い表す言葉であり、決して「formschlüssig」というドイツ語をダイレクトに体現している言葉ではありません。つまり、確動機構とは、形状結合を使用することにより、運動や動力を滑りなく確実に伝達できるように構成された伝動機構ですが、結合要素同士の結自体はあくまでも形状による結合、つまり「形状結合」に基づくものです。「非確動的」なクラッチについても同様であり、この場合も結合自体はあくまでも「摩擦結合」であり、その結果、クラッチが、滑りを伴って非確動的に作動するというものに過ぎません。つまり、「確動」「非確動」とは、伝動機構の動力伝達形式を意味するものです。「確動クラッチ」場合、連結が形状結合(たとえばかみ合い)により行われるので、動力(トルク)は滑りなく確実に伝達されますが、クラッチの連結は、基本的に停止状態においてしか行うことができません。それに対して、「非確動クラッチ」では、連結が摩擦結合により行われるので、動力伝達には滑りが伴いますが、たとえば2つのシャフト端部を、たとえ大きな回転数差が在する場合でも、徐々に連結していくことが可能になります。このようにクラッチの動力伝達の機能様式や特徴を言い表すのが「確動」と「非確動」という言葉です。

しかし、形状結合や摩擦結合の用途は、なにも伝動機構に限ったものではなく、たとえば物を固定したり、取り付けたりする場合にも使われます。たとえば「ねじ結合」(Schraubverbindung)という摩擦結合を利用して物を固定する場合を考えてみると;
・Das Bauteil A ist kraftschlüssig über eine Schraubverbindung an dem Bauteil B befestigt.
 (部材A は、ねじ結合を介して摩擦結合式に部材Bに固定されている)
というドイツ語文があるとして、これを;
「部材Aは、ねじ結合を介して非確動式に部材Bに固定されている」
と訳してしまうと、意味が分からなくなってしまいます。この場合、「ねじ結合」は伝動手段として働くのではなく、固定手段として働くものですからね。さらに、もう1つ;
・Die Befestigung erfolgt formschlüssig, kraftschlüssig oder stoffschlüssig.
(取付けは、形状結合式、摩擦結合式または材料結合式に行われる)
というドイツ語文があるとして、これを;
「取付けは、確動式、非確動式または材料結合式に行われる」 と訳してしまうと、一層奇妙な文章になりますね。物を取り付けるのに、「確動式」とか「非確動式」というのは妙です。それに、stoffschlüssig だけが「材料結合」のままで浮いてしまっていて、仲間外れになって可哀想です。stoffschlüssig にも「確動シリーズ」の仲間入りができる別の訳し方があるのではないか?と思うでしょうが、そもそも、切換可能(連結・遮断可能)な機械式のクラッチにおいて連結要素を連結する原理としては、formschlüssig か、reib(kraft)schlüssig のいずれかしか考えられません。stoffschlüssig は、以前ご紹介した「解離不可能な結合」(unlösbare Verbindung)のカテゴリに属するので、もしも、連結要素を接着や溶接によりstoffschlüssig に結合してしまったら、クラッチは二度と遮断できなくなってしまいますからね。なので、stoffschlüssig なクラッチという奇妙なものは存在しません。カムに至っては、カムと従動節とを接着結合してしまったら、まるっきり動かなくなってしまいます。そんなわけで、可哀想ですが、stoffschlüssig に関しては「確動シリーズ」の仲間入りのできるような訳し方は存在しません。

ということで、formschlüssig と reib(kraft)schlüssig に対する「確動」や「非確動」という訳語は、伝動機構についてのみ有効であると考えられ、「確動カム」とか「確動クラッチ」などの決まった用語以外にはあまりオススメできません。しつこいようですが、結合要素の結合自体は、あくまでも「形状結合」か「摩擦結合」により行われるからです。以上、今回は、formschlüssig と reib(kraft)schlüssig ちょっと変わった訳し方をご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか? 考えようによっては、こういう訳し方のカードを持っていても決して損はないと思います。翻訳の幅が広がりますし、そして、何よりも、訳語を使い分けることによって、むしろ formschlüssig や reib(kraft)schlüssig の原語本来の意味に対する理解度が深まることが期待できますからね。

さて、おきまりのお月様ネタですが、先日 11 月 14 日の夜は「スーパームーン」というロックなお月様が見られましたね。これは、月が地球に最も近づいたときに見える、明るくて巨大な満月のことです。今年は 68 年振りとなる近距離まで地球に近付いたそうです。スーパームーンは、もちろんドイツでも観察されます。ドイツ語では「Supervollmond」と言います。「スーパーフルムーン」(巨大満月)ということですね。ドイツでは、スーパームーンが私たちの睡眠(Schlaf)に与える影響が話題になっているようです(Was macht der Supervollmond mit meinem Schlaf ?)。面白いのは、ここでも「スーパームーンは、人を萌えさせる!」という萌え説があることです。科学的な根拠はないものの、多くの人がスーパームーンをロマンチックだと感じていて、女性の2人に1人はスーパームーンの夜は、萌えて眠れなくなると答えているそうです。そんな夜に漱石流に「お月様がきれいですね!」などと囁けば、あなたも萌えるロックスーパームーンの夜を堪能できるはず。次回の萌えるスペクタクルショーが楽しみですね。しかし、bis zum nächsten Spektakel des Supervollmonds müssen Sie aber bis zum 25. November 2034 warten !