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ドイツ語特許翻訳の世界(6)

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トランスユーロ株式会社
代表取締役 加藤 勇樹 

今月も、引き続き、特に審査において度々問題となる Formschluss(形状結合)と Reib-(Kraft)schluss(摩擦結合)の 2 つに的を絞って、その闇に光を当てていきたいと思います。前回は、Formschluss と Reib-(Kraft)schluss の別の訳し方(「確動」「非確動」)をご紹介しました。今回は、FormschlussとReib-(Kraft)schluss)が実際に使われている特許明細書を例にとって、その技術概念の実体を明らかにしていきたいと思います。

例に挙げた特許明細書(特表 2012-530224)に記載の発明は、直交している 2 つの成形ロッド12,14 を互いに結合するための成形ロッド結合システム 10 に関するものです。この成形ロッド結合システム 10 は、第 1 の成形ロッド12を保持する第1および第2の半割バンドクランプ16,18と、第2の成形ロッド14を保持するクランプ装置20 とを有しています。第2の成形ロッド14を保持するクランプ装置20は、最終的に、第1の成形ロッド12を保持する第1および第2の半割バンドクランプ16,18と結合され、これにより両成形ロッド12,14は互いに結合されます。



そして、この出願の特許請求の範囲(請求項 1、4)には、おおよそ下記のような記載があります;『第1の半割バンドクランプ(16)および第2の半割バンドクランプ(18)の第1の端部(16a,18a)が、互いに形状締結式に結合されており(die ersten Enden (16a, 18a) der ersten und zweiten Halbschellen (16,18) sind formschlüssig miteinander verbunden)、クランプ装置(20)が、・・・第1の半割バンドクランプ(16)および第2の半割バンドクランプ(18)の、嵌め合わされた第 2 の端部(16b,18b)を形状・摩擦締結式に把持するための相応する収容部(26a,28a)を有する(die Klemmvorrichtung (20)weist entsprechende Aufnahmen (26a, 28a) zum form- und kraftschlüssigen Ergreifen der zusammengefügten zweiten Enden (16b, 18b) der ersten und zweiten Halbschellen (16,18) auf)。』
(「形状締結」「摩擦締結」は「形状結合」「摩擦結合」と同義であると思われます)

いかがでしょう? これだけ読まされても、何だか分かりませんよね? 脳裏にはまるで具体的な構成は浮かんでこないでしょう。それでは、もう少し具体的にご説明しましょう。

第1の成形ロッド12と第2の成形ロッド14とを互いに結合するためには、まず第1の半割バンドクランプ16と、第2の半割バンドクランプ18とが、第1の成形ロッド12 に巻き付けられます。そして、第 1 の端部同士 16a,18a および第2の端部同士16b,18b がそれぞれ互いに結合されます。このときに、第1の端部16a,18a士は、下の図面から判るように、第1 の半割バンドクランプ16の突出部34が、第2の半割バンドクランプ18の凹部36内に係合(eingreifen)することにより互いに結合されます。したがって、半割バンドクランプ16の第1の端部16aと、半割バンドクランプ18の第1の端部18aとは、凹部36と突出部34との凹凸形状の係合に基づいて「形状結合(Formschluss)」により互いに結合されると云えます。


それに対して、半割バンドクランプ16,18の第2 の端部16b,18b同士は、第2の端部 16bに設けられた舌片40が第2の端部18bに下から係合することにより結合されますが、両第2の端部 16b,18b の間にはまだ小さな隙間が残されています。そこに、第2の成形ロッド14を保持するためのクランプ装置20が装着されます。クランプ装置20の両半割シェル26,28には、半割バンドクランプ 16,18 の、嵌め合わされた第2の端部 16b,18b を把持するための収容部26a,28a が設けられています。したがって、クランプ装置20は、第2の成形ロッド14に被せられると同時に、収容部26a,28aによって半割バンドクランプ16,18の第2の端部16b,18bにも被せられて係合し(形状結合)、そして、ねじ44を締め付けることにより、第2の成形ロッド14をクランプすると同時に、収容部26a,28a によって半割バンドクランプ16,18の第2の端部 16b,18b を押し合わせるので両第2の端部16b,18bを摩擦力により把持します(摩擦結合)。したがって、クランプ装置20の収容部26a,28aは半割バンドクランプ16,18の第2の端部16b,18b を、「形状結合・摩擦結合(Form- und Kraftschluss)」により把持することになります。



さて、いかがでしょう? それでは、上の説明を踏まえて、もう一度、特許請求の範囲の記載に目を通してみましょう;
・『第 1 の半割バンドクランプ(16)および第 2 の半割バンドクランプ18の第1の端部(16a,18a)が、互いに形状締結式に結合されており、
クランプ装置(20)が、・・・第1の半割バンドクランプ(16)および第 2 の半割バンドクランプ(18)の、嵌め合わされた第2の端部(16b,18b)を形状・摩擦締結式に把持するための相応する収容部(26a,28a)を有する。』


どうでしょうか? 最初に読んだときよりは、理解度がアップしたと思います。「ああ、そういうことか。。。」と呟いていただけましたか?

では、上記の請求項の記載を詳しく分析してみましょう!
最初の「形状締結式」とは、図示の実施形態で云えば、第 1 の半割バンドクランプ16の第1の端部16aに設けられた突出部34が、第2 の半割バンドクランプ18の第1の端部18aに設けられた凹部36内に係合する(凹凸形状の嵌合による形状結合)ことであり、次の「形状・摩擦締結式」とは、クランプ装置20に設けられた収容部 26a,28aが、半割バンドクランプ16,18 の、嵌め合わされた第2の端部16b,18bに被せられて係合し(第2の端部 16b,18b への収容部 26a,28a の嵌合による形状結合)、そして、ねじ44を締め付けることによって半割バンドクランプ16,18の第2の端部16b,18bを押し合わせて摩擦力により把持する(摩擦力による摩擦結合)ことです。

このように、「形状結合」や「摩擦結合」は、実際のドイツの明細書では、特に特許請求の範囲に記載される場合が多いのです。それは、やはり、「形状結合」や「摩擦結合」が、ドイツの結合技術の概念の中では上位にあるので、権利範囲をできるだけ広くカバーするためには非常に使い勝手の良い用語であるからでしょう。その反面、日本では、まだ「何だこり?」的な用語なので、特許請求の範囲に記載されていると、36 条の拒絶理由を受ける確率が高いようです。そして、実はさらに困ったことに、「形状結合」と「摩擦結合」は、非常に区別しにくい場合もあるのです。たとえば、上の場合でも、クランプ装置 20 の収容部 26a,28a は、半割バンドクランプ16,18の、嵌め合わされた第2の端部 16b,18bに被せられて係合し、そして、両第2の端部 16b,18b を押し合わせて摩擦力により把持することにより、両第2の端部16b,18bを形状・摩擦締結式に把持する、と記載されています。収容部が両第2の端部に嵌合している状態には変わりないのですが、ねじ44を締め付けて収容部が両第2の端部に押圧されることにより、はじめて「摩擦締結」が形成されることになります。つまり、同じ嵌合でも、その嵌まり具合によって形状結合であったり、摩擦結合であったりするわけですね。そこで次回は、結合シリーズの仕上げとして、形状結合と摩擦結合の「境目」に迫ろうと思っています。

さて、師走に入り、メッキリと冷え込んできました。その分、空気が澄み、忘年会帰りに見上げる夜空には、スーパームーンとまではいかなくとも、かなりロックなお月様が見えるようになりました。月面の模様もだいぶくっきりと浮かび上がっています。そうそう、日本では、古来より「月の兎」(Hase im Mond)と云って、月の模様は、うさぎが餅つきをしている姿であると言われていますが、実は世界各国にも色々なお月様模様があるようです。北ヨーロッパでは「本読むおばあさん」、インドネシアでは「吠えているライオン」、カナダでは「バケツを運ぶ女性」などと呼ばれています。さて、ドイツ人には月の模様はどのように見えているのでしょうか?
ドイツでは何故か「薪を担ぐ男」(ein Mann mit einem Bündel Holz auf dem Rücken)に見えると云われています。この男には、実は、「働き者のハンス(Hans)」という名前があります。ハンスが薪拾いの仕事を日曜日にも休まずに続けていたところ、神様が怒って「そんなに仕事が好きなら、おまえには永久の月曜日(Montag)を与えてやろう!」と言ってハンスを月に永久に追放してしまった、という伝説(「Das Märchen vom Mann im Monde」)があるそうです。日曜日にも翻訳の仕事に勤しむ皆さんも、第 2 のハンス(辞書を担ぐ男?)にならぬようご注意ください。
ともあれ、今年は私の稚拙な文章にお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

皆さま、良いお年をお迎えください!
Guten Rutsch ins neue Jahr !!