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2020.06.17

法律翻訳

法律翻訳における「Arbeitnehmer」をめぐって -法的・歴史的背景を知る


トランスユーロでは、ドイツ語の法律翻訳(契約書から裁判文書まで)を得意としています。当然のことですが、英語を介すことなく、ドイツ語から日本語へ直接翻訳致します。今回のブログでは、そのドイツ語の法律翻訳に出てくる用語「Arbeitnehmer(労働者)」について法的・歴史的背景を書かせていただきました。

„Arbeitgeber“と„Arbeitnehmer“

ドイツ語の法律文書、とりわけ雇用契約書(Dienstvertrag)または労働契約書(Arbeitsvertrag)をお読みなる方は、この2つの単語ペアについて良くご存知のこと思います。これら2語は、「ドイツ民法(BGB)」611条以下、および「営業法(Gewerbeordnung)」第7編(Titel VII Arbeitnehmer)を含む、労働関係を規定する諸法令(2020年4月現在、ドイツ連邦共和国に統一的な労働法典は存在しません。)に依拠しています。

これらを原語の意味に即して訳せば「使用者」と「被用者」になります。しかし、法律文書の翻訳としては„Arbeitnehmer“をただ単に「被用者」として良いのかどうか、少し考える必要があると思います。と申しますのは、日本の労働法制においては、雇用される側が「労働者」の語でほぼ統一されているとはいえ、民法や商法など他の法律では、文脈により被用者と労働者の両者が併用されているからです。

„Arbeitnehmer“をドイツ語の雇用契約書または労働契約書から日本語に訳す場合、日本の労働法制に合致する訳語としては「労働者」が適切であると思います。しかしながら、他の法律文書では文脈に応じて訳し分ける必要があります。(なお、「法令用語日英標準対訳辞書(平成31年3月改訂版)」においても、労働者の語は多くが“employee“と訳されており、文脈によって“worker“が用いられています。)

„Angestellte“と„Arbeiter“

実際のところ、„Arbeitnehmer“はそれほど翻訳者を迷わせる単語ではありません。ですが、この語の背景には、ドイツ労働史およびドイツ労働法史における労働概念および労働者概念の変遷が存在していることは、確認しておいても良いと思います。

いささか古びているうえにあまり好ましい表現ではありませんが、誰かに雇われて働く人たちの中にホワイトカラーとブルーカラー、いわゆる精神労働に従事する者と筋肉労働(肉体労働)に従事する者との区別がありました。これに対応するドイツ語が„Angestellte“と„Arbeiter“です。後者は英米法上の“labo(u)rer“と重なるところが大きいですが、ドイツ語に対応する日本語訳はそれぞれ「職員」と「労働者」になります(前者の„Angestellte“に対応する英語は“staff“でしょうが、法律英語としては“employee“、文献によっては“worker“とされているようです。)。この両者をまとめて表現する上位概念として„Arbeitnehmer“、すなわち「被用者」が用いられてきました。

しかし、現実の労働の仕方それ自体が、精神労働であるか筋肉労働であるかの区別を無意味とするようになりました。したがって、これを社会的および法的に区別する意味もまた、なくなりました。こうして、雇う側である「使用者」に対しての雇われる側である「被用者」が、ドイツ労働法制においては„Arbeitnehmer“の語で定着しましたが、上にも書きましたように、日本の労働法制上の用語としては「労働者」が相応しいことになります。


参照

● ドイツ連邦司法および消費者保護省
● e-Gov法令検索
● 厚生労働省
● 法令用語日英標準対訳辞書


 

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