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2020.11.30

ドイツ語

新しいドイツ語、消えゆくドイツ語-第28版のDudenを手引きに


翻訳作業に欠かすことのできない辞書。ドイツ語においては、ドイツのビブリオグラフィッシェス・インスティトゥートから出版されているDuden が、ドイツ語版広辞苑ともいわれており、ドイツ語の正書法も決定している権威ある辞書です。このドイツ語正書法辞典(Die deutsche Rechtsschreibung)は、3-5年毎に発行されており、2020年8月19日には3年ぶりに改訂版が出版されました。今回の改訂では、新型コロナCovid-19の影響もあり、コロナに関連する新しい言葉も多く掲載され、見出し用語の総計は、これまでで最も多い148,000語が掲載されました。

1. 追加された見出し用語の傾向

新しく追加された単語は3000語、削除された単語は300語となった第28版のDudenですが、今回の改訂では、新型コロナ関連の単語の追加が話題となっています。Covid-19(新型コロナウィルス感染症の正式国際名称), Lockdown(ロックダウン)、Social Distancing(ソーシャルディスタンス)といった日本でも使用されている英語は、ドイツ語圏でも使用されており、 Reproduktionszahl(実行再生産数)、Geisterspiel (無観客試合)、Atemschutzmaske (マスク)などの表現も今回追加となりました。

そのほかにも、Ladesäule (電気自動車などのための地上設置型充電スタンド)、Elektroscooter (電気スクーター)、Uploadfilter(アップロードフィルター)といった技術分野の単語、Flugscham (フライトシェイム)、Repairecafé(リペアカフェ)、Fridays for future (未来のための金曜日)といった環境問題に関連する単語も多く追加されています。

一方、削除された単語には、Hackenporsche(ショッピングカート)、Fernsprecheranschluss(電話接続)、Kabelnachricht(電報)などがあり、時代の変遷と共に消えゆく言葉も存在します。

2. 英語化するドイツ語

今回の改訂版へは、様々な批判も呼び起こしています。第一に、加速していく英語化の波に対して、保守派からの強い批判が起こっています。前述のコロナ関連の用語も然り、Influencer (インフルエンサー)や、Hatespeech(ヘイトスピーチ)など、英語の表現をそのままドイツ語として採用しているため、英単語の増加によるドイツ語の衰退も懸念されています。

3. ドイツ語のジェンダー問題

そして、今回の改訂版には、「ジェンダーのアスタリスク」(Gendersternchen)の使用法に関する注釈も掲載されているため、物議を醸しています。これは一体どのような問題なのでしょうか?

ドイツ語では、人、職業、地位などを表す単語には、語尾にerがつくと男性形、inがつくと女性形となります。例えば、日本人男性であればJapaner、日本人女性はJapanerinとなります。そして、この「ジェンダーのアスタリスク」(Gendersternchen)というのは、性別を明示しない場合に用いられるアスタリスク「*」の事を指しています。つまり、男女どちらでもない、一般的日本人を指す場合には、Japaner*inとし、複数形になるとJapaner*innenと表記されます。(アンダーバーやスラッシュを使用する場合もあります。)

これらの表記法は、常々問題視されており、崩壊した言語構造などとも揶揄され、Gesellschaft für deutsche Sprache(ドイツ語言語協会)からも、ドイツ語のスタンダードとなる辞書にこのような言語使用が掲載される事で誤解を招くと、強く批判されています。とはいえ、Duden側は、この問題性を取り挙げ、現在提案できる限りの解決策を述べているに過ぎないと弁明しています。

ことばは生き物と言われます。社会の在り方と共に変容していくなかで、ドイツ語の翻訳者たちも常に知識と情報をアップデートしながら作業にあたっています。


参考HP

 

 

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