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2026.08.28
~トランスユーロの知恵ふくろう~ 翻訳・通訳ブログ
特許翻訳は将来なくなる?人間の翻訳者が必要な理由とAIによる誤訳例

知的財産権の1種である特許に関わる特許翻訳は、数ある翻訳分野の中でも難易度が高い分野の一つです。
しかし近年、AIを活用した機械翻訳(MT/Machine Translation)が著しい進化を遂げています。
これを受けて、翻訳業界では「近い将来、特許翻訳者の仕事はなくなるのでは」という懸念の声も聞かれるようになってきました。
そこで本記事では、ドイツ系特許法律事務所から独立・創業した経緯を持つ翻訳会社トランスユーロが、本当に特許翻訳がなくなるのか、特許翻訳のプロとしての視点から解説します。
特許翻訳とは?「なくなる」と言われている理由
特許翻訳に対応するには、ソース言語と翻訳ターゲット言語に対する高度な語学知識はもちろん、技術分野や知的財産権に関する制度・法律等の知識も必要です。そのため、特許翻訳の難易度は、手紙やメールなどの一般文書を翻訳する場合に比べると、かなり高いと言えるでしょう。
難易度が高いにも関わらず、今後、人間の翻訳者に特許翻訳を依頼する必要がなくなる(特許翻訳者の仕事がなくなる)と噂されている理由としては、主に以下の2点が考えられます。
- 近年、AIを搭載した機械翻訳の精度が飛躍的に向上しているから
- 特許翻訳の対象となる文書には定型表現が多く、機械翻訳に適しているから
すべての特許出願は、出願日から1年6ヵ月経過すると特許庁の発行する「特許公開公報」に全文が掲載され、公開された内容(公開公報)は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)などで誰でも閲覧可能となります。
機械翻訳システムに搭載されたAIは、公開されている大量の特許明細書の翻訳データをネット上でリサーチし、これをもとに学習進化していくため、近年、機械による特許翻訳の精度が加速度的に高まってきているのです。
また特許翻訳の対象となるのは、特許明細書・特許請求の範囲・図面・要約書などの出願書類一式や、審査請求後に出願国の特許庁と出願人との間でやり取りをする拒絶理由通知書、意見書、補正書、拒絶査定の書類等ですが、これら書類の文章には定型表現が多く含まれています。
このような「特定の様式に沿って作成された文章」の翻訳は、機械翻訳の得意とする作業であるため、数ある翻訳分野の中でも、特許翻訳は機械翻訳と比較的相性が良いと言えるでしょう。
【関連記事】特許翻訳とは?出願人が権利を守るための会社選びや依頼時の注意点
結論:翻訳者への特許翻訳の需要がなくなることはない

機械翻訳と相性が良く、人間の翻訳者による対応が不要になるのではと指摘されている特許翻訳ですが、私たちトランスユーロとしては「人間の翻訳者による特許翻訳の需要がなくなる可能性は極めて低い」と考えています。
特許翻訳に長く携わってきた私たちが、人間の翻訳者による特許翻訳の需要はなくならない(特許翻訳者の仕事がなくなることはない)と断言する理由としては、主に以下の5つです。
【翻訳会社が人間による特許翻訳需要がなくならないと考える5つの理由】
- 無償の機械翻訳にはセキュリティ上の懸念がある
- 機械翻訳が原因で損失が生じた場合に、法的責任の所在が不明
- 特許翻訳に必要な「新しい技術・用語」への対応が不十分
- 出願人の意図や依頼主の指示を反映した翻訳ができない
- 翻訳する言語により、依然として品質のばらつきが大きい
1. 無償の機械翻訳にはセキュリティ上の懸念がある
機械翻訳のシステム・アプリにはさまざまな種類がありますが、その多くに無料で使える「無料版」と、費用が必要な代わりに、無料版よりも高精度な翻訳が可能な「有料版」があります。
このうち無料版では、翻訳にかけた文章をシステムやアプリの学習データとして運営会社が吸い上げる仕様になっているのが一般的です。そのため、機密情報である特許関係の文章を入れて翻訳するには、セキュリティ上、重大な懸念があると言えるでしょう。
2. 機械翻訳が原因で損失が生じた場合に、法的責任の所在が不明
特許翻訳では、少しの誤訳が発明の権利範囲の乖離や縮小を招いてしまう恐れがあります。
例えば、クレーム(特許請求の範囲)の記載に誤訳があると「不明瞭記載」とみなされて拒絶理由の対象となったり、場合によっては、出願人の意図した権利範囲を損なう結果を招き、発明者・出願人に対して重大な損失を与える恐れがあるのです。
もし、機械翻訳による誤訳が原因で発明者・出願人が損失を被ることになっても、現状、翻訳アプリ等の機械そのものや、運営会社に法的な責任を問うことは難しいと考えられます。
3. 特許翻訳に必要な「新しい技術・用語」への対応が難しい
機械翻訳は、基本的に「過去のデータから学習したこと」をもとにした翻訳しか提供できません。
特許翻訳では、新しい技術や製品の名称等については造語を使い、原文通りの内容になるよう正確にミラートランスレーションする(誤記も含めできるだけ原文を尊重して翻訳する)ことが求められます。
そのため、原則として新しい技術に関する学習データを持たない機械による翻訳では、高品質な特許翻訳の提供は難しいでしょう。
4. 出願人の意図や依頼主の指示を反映した翻訳ができない
特許翻訳では、原文の技術内容を深く理解し、発明の目的や利点など発明者・出願人の意図を十分に汲んだ翻訳対応が必要になります。
また、用語の統一や、クライアントが指定する用語使用を徹底することも求められますが、過去の学習データからパターンを見つけ、そのパターンをもとに翻訳を行う機械翻訳では、上記いずれの対応も難しいのが実情です。
5. 翻訳する言語により、依然として品質のばらつきが大きい
機械翻訳の精度は、翻訳にかけられる機会(サンプル数)が多い言語ほど高くなるとされます。
英語⇔日本語など、サンプル数が多い言語の翻訳精度はかなり向上しているものの、ドイツ語⇔日本語など翻訳サンプル数が比較的少ない言語間の翻訳では、精度に欠けた訳文が出力されることもあります。
翻訳したい言語によっては、機械による正確な翻訳が難しいケースもあると理解しておきましょう。
AI搭載の機械によるドイツ語⇒日本語の特許翻訳の誤訳例

ここからは、2026年現在の機械翻訳の精度について、具体例とともに紹介します。
トランスユーロでお引き受けすることの多いドイツ語⇒日本語の特許翻訳の精度を確認するため、特許明細書をイメージした以下のドイツ語原文をAIを搭載した機械翻訳にかけました。
【ドイツ語の原文(特許明細書をイメージした内容)】
Der erste Träger 23 weist Vorsprünge 26 auf und der zweite Träger 33 weist Aussparungen 36 auf, welche zumindest teilweise ineinandergreifen.
上記のドイツ語原文に対し、機械翻訳によって提示された日本語訳の結果は、以下の通りです。
【日本語の訳文(特許明細書をイメージした内容)】
支持体23には突起26が設けられており、第2の支持体33には少なくとも部分的に互いに噛み合う凹部36が設けられている。
※2026年7月に翻訳を実施
ドイツ語原文にある「Vorsprünge」は突出部、「Aussparungen」は凹部という意味があるため、「Vorsprünge 26=突起26」「Aussparungen 36=凹部36」と翻訳することができます。
一般的に歯車等のメカニズムは、凹凸部が互いに噛み合う(係合する)ことで作動しますが、AIからは「互いに噛み合う凹部36」という翻訳文が提示されました。しかし、凹部同士が互いに噛み合うことは物理的にあり得ません!
これは、AIが原文にある「welche」という関係代名詞の先行詞を、直前の「Aussparungen 36」のみだと捉えているためです。この判断は、ドイツ語文法としては決して間違いではなく、文脈によっては「welche」の先行詞が「Aussparungen 36」のみである可能性も十分考えられます。
しかし、物理的に考えて凹部が互いに噛み合うことはないため、今回の原文の場合は「Aussparungen 36」と「Vorsprünge 26」の両方を「welche」の先行詞と考えて、翻訳を行わなければなりません。
以上を踏まえ、同じ原文をトランスユーロの翻訳者が翻訳した文章を、以下に提示します。
【トランスユーロによる参考訳】
第1の支持体23は突出部26を有し、第2の支持体33は凹部36を有し、突出部26と凹部36とは少なくとも部分的に互いに内外に係合している。
文法上の解釈だけでは正しい特許翻訳はできない
ここまで見てきた通り、文法の知識だけでは、正確な特許翻訳を提供することはできません。
翻訳言語の文法だけでなく、技術内容を熟知した人間の翻訳者だからこそ、文法に沿った翻訳の矛盾に気が付き、原文の意味に沿った正確な翻訳を提供することができるのです。
【関連記事】ドイツ語の翻訳を依頼するなら?会社選びのポイントや費用目安を解説
機械ではなく人間の翻訳者による特許翻訳が必要な理由
先述した通り、特許翻訳にはまだまだ機械では正確に対応できない要素が多く存在します。
また、経験と実績が豊富な翻訳者・翻訳会社には、高品質な特許翻訳の提供を実現するための独自のノウハウがあります。
このような経験値に由来する知見は、基本的にデータ化されておらず、インターネット上にも公開されていないため、2026年現在のAIが学習・習得することは不可能だと言えるでしょう。
発明内容の独自性、新規性、進歩性等を忠実に再現するには、翻訳言語だけでなく技術や法律に関する知識も有し、原文の意図を正確に理解して翻訳できる人間の翻訳者に特許翻訳を依頼することが極めて重要になってきます。
近年は機械と翻訳者で特許翻訳する「MTPE」も一つの選択肢に
AIの急速な進化を受けて、近年ではAIが翻訳した文章を人間の翻訳者がチェック・編集し、よりスピーディーに、正確な翻訳原稿の完成を目指す「MTPE」という手法も活用されています。
MTPEは「機械翻訳後編集」や「ポストエディット」とも呼ばれる翻訳手法で、トランスユーロでも対応が可能です。MTPEによる特許翻訳のご希望がある場合は、ぜひご相談ください。
トランスユーロによる特許翻訳(日・独・英)の強み

ドイツ系法律特許事務所から独立・創業したという経緯から、トランスユーロでは日本語・英語・ドイツ語の特許翻訳に長く従事し、実績とともに独自のノウハウを積み上げてきました。
【トランスユーロによる日本語⇔ドイツ語・英語の特許翻訳の特徴】
- 翻訳品質の維持・向上のため、クロスチェックと校正を徹底
- 日本語⇒ドイツ語・英語への直接翻訳ではネイティブチェックも通常工程として実施
- 長年蓄積してきた経験・知識をもとにした「権利範囲を意識した翻訳」ができる
- 出願から拒絶理由通知書等の中間処理に至るまで、包括的なサポートが可能
- ドイツ語・英語の両言語への特許翻訳に対応できる翻訳者が在籍
- 上記翻訳者による「ドイツ語原文参照付の日英翻訳サービス」も提供可能
トランスユーロの「ドイツ語原文参照付の日英翻訳サービス」とは?詳細はこちら!
出願人が不利益を被らないようにするには、権利範囲を意識した正確な特許翻訳が不可欠です。
トランスユーロには、特許実務経験を有する翻訳者が在籍しており、日常的に特許明細書や中間書類の翻訳に対応しています。
特許翻訳に強く、英語だけでなくドイツ語にも対応できる翻訳会社、翻訳者を探しているなら、ぜひ私たちトランスユーロに安心してご相談・ご依頼ください。
ドイツ語・英語への直接翻訳のご相談はトランスユーロへ

トランスユーロは、ドイツ系法律特許事務所の翻訳部から独立・創業した翻訳のプロ集団です。
各分野の専門スキルを持つ熟練の翻訳者を社内外に抱え、日本語からドイツ語・英語への翻訳はもちろん、ドイツ語・英語から日本語への翻訳時にも他の言語を挟まない直接翻訳に対応。
主に特許翻訳など、専門的かつ翻訳難易度の高い以下のような文書の翻訳を得意としています。
- 特許翻訳:出願から中間処理、知財裁判まで翻訳を通してトータルサポート
- 技術翻訳:産業マニュアルや取扱説明書、カタログ、技術論文等の翻訳
- 法律翻訳:判決文などの法律関係文書、企業の契約書などを正確に翻訳
- 医療翻訳:医療機器の添付文書(英⇔日・独⇔日)、医薬翻訳(英⇔日のみ)
- 証明書翻訳:海外の各種証明書、公文書(ドイツ語認証翻訳含む)の翻訳
- ビジネス文書翻訳:会社案内やホームページ、契約書、社内規則等の翻訳
翻訳の工程においては、クロスチェック・校正はもちろんのこと、日本語からドイツ語・英語への直接翻訳の際には通常工程としてネイティブチェックも実施し、翻訳品質を担保しています。
日本語からドイツ語・英語、ドイツ語・英語から日本語、そして英語・ドイツ語間の直接翻訳、及びこれらの言語を用いた専門文書の高品質な翻訳に対応できる翻訳会社を探しているという場合は、ぜひ一度、私たちトランスユーロにもお気軽にご相談・お問合せください!


