ドイツのサラダ フェルトザラート

 

ドイツで暮らしていると、スーパーや市場でよく見かける「Feldsalat(フェルトザラート)」という野菜。

日本ではあまり知られていませんが、ドイツでは冬になるとサラダの定番として欠かせない存在です。

小さな緑の葉が特徴的で、ほんのりナッツのような風味があるこの野菜は、日本ではほとんど手に入らないので、ドイツで生活をしたことのある日本人にとっては恋しくなる存在です。

今回は、このフェルトザラートの魅力と、興味深い名前の話を中心にご紹介します。

 

驚くほど多い、地域ごとの呼び名

 

フェルトザラートは、正式には「Valerianella locusta」という学名を持つ野菜で、英語では「Lamb’s lettuce」「Corn salad」、フランス語では「Mâche(マッシュ)」として知られています。

しかし、特に面白いのは、ドイツ国内だけでも地域によって呼び方が驚くほど異なることです。

代表的なものは「Feldsalat(フェルトザラート)」ですが、これ以外にもさまざまな別名があります。

たとえば:

  • Ackersalat(アッカーザラート):直訳すると「畑のサラダ」。主にバイエルンなどで使われます。
  • Mausohr(マウスオーア):意訳すると「ねずみの耳」。葉の形に由来するかわいらしい名前です。
  • Rapunzel(ラプンツェル):グリム童話とも関係があり、特に南ドイツやオーストリアでこの呼び方が一般的です。
  • Nüsslisalat(ニュスリザラート):スイスでよく使われ、「ナッツのようなサラダ」という意味です。
  • Sonnenwirbele(ゾネンヴィルベレ):南ドイツの一部地域で使われる方言名です。
  • Schafmäulchen(シャーフモイルヒェン):直訳すると「羊の小さな口」。可愛らしい響きの方言名です。
  • Rebkresse(レープクレッセ):直訳すると「ブドウ畑のクレソン」。ワイン産地の地域で使われることがあります。
  • Vogerlsalat(フォーゲルザラート):オーストリアで一般的な呼び名です。「Vogerl」は「小鳥」を意味する方言的な表現で、葉っぱが小さく可愛らしいことから名付けられています。

 

このように、同じ野菜でも地域ごとに異なる呼び名があるのは、まさにドイツ語圏ならではの現象です。

ビールやパンだけでなく、野菜にまで方言や地域色が表れるのは、ドイツ・オーストリア・スイスの食文化の奥深さを物語っています。

 

 

童話『ラプンツェル』とフェルトザラートの意外な歴史

 

フェルトザラートは、実はグリム童話の有名な『ラプンツェル』にも登場します。

物語の冒頭、妊娠中の女性が隣の魔女の庭に生えているラプンツェルという植物をどうしても食べたくなり、夫がこっそり摘みに行く…というシーンがあります。

その「ラプンツェル」が何の植物かは諸説ありますが、ドイツではフェルトザラートを指すことが多いのです。

 

 

このエピソードからも、フェルトザラートがいかに昔からドイツ人の生活に身近な存在だったかが分かります。

ただ、興味深いのは、今のようにきちんと栽培されるようになったのは比較的最近ということ。

もともとフェルトザラートは、畑に自然に生える雑草のような存在で、他の作物を収穫する際に一緒に刈り取られるような、いわば「おまけ」の野菜だったと言われています。

しかし20世紀に入ると、その栄養価や風味が見直され、徐々に本格的に栽培されるようになりました。

今では、冬の家庭料理のサラダとしてだけでなく、レストランの高級料理の付け合わせとしても登場するほどです。

さらに、技術の発達により、一昔前までは冬の限られた時期だけの食材だったフェルトザラートが、今では夏場でも手に入るようになりました。一年を通して楽しめるようになったことで、その人気はますます広がっています。

 

日本ではほとんど知られていないフェルトザラートですが、ドイツに滞在する機会があれば、ぜひ一度試してみてください。

素朴でやさしい味わいと、地域ごとに異なるユニークな呼び名、そして童話のような歴史を知ることで、ドイツの食文化がより身近に感じられるはずです。

 


参考HP

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