
„Birne“ の発音は本当につづり通り?
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皆様こんにちは。南ヨーロッパでは40度を超えた地域もあり、ドイツもしばらく暑い日が続きましたが、急に気温が下がりお天気も不安定になりました。
気候変動をひしひしと感じます。日本は猛暑が続くようですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
さて、今回のテーマは発音に関するちょっとしたお話をしたいと思います。
ドイツ語を学習する際に「ドイツ語は発音のルールも比較的固定されるし、例外もないから学びやすい」と言われることがあるかと思います。
実際、英語やフランス語に比べればドイツ語のスペルと発音の関係性は比較的学びやすく、覚えやすいものが多いというのが、私が初学者の頃に感じたものでした。
そんな風に感じながら学習歴を数年重ね、当時タンデムパートナーであった夫とタンデムをしていた学生時代。
とある単語の発音について笑われるという出来事がありました。それが„Birne“の発音だったのです。
ir- の発音
そんな割と学習初期に出てくる単語の発音で「つまづいて」いたなんて…!
当時は今に比べればまだまだドイツ語での会話の機会が少なかったとはいえ、それなりにドイツ語の発音には自信のあった私は、まさか„Birne“の発音を指摘されると思っておらず、自分の勉強不足を痛感した瞬間でした。
何を指摘されたかというとir-の発音で/i/をとてもはっきり[i]と発音している、と言われたのでした。
でもそれ以外にどう発音しろというのだ?と少しむっとした私は、夫に発音のお手本を求めました。
すると彼はこの/i/を非常に曖昧に発音しており、はっきりと[i]とは聞こえなかったのです。
曖昧母音で発音しているようにも聞こえるけれど、でも[i]もかすかに感じるなんとも言えない発音です。
よくよく他のドイツ人の友達の発音も聞いてみると、彼と似たような発音をしていたのでした。
周りのドイツ人と言っても当時は10人知っているか知らないかというレベルでしたが、「きっと地域差があるのだ!」とは言えないくらいの人たちから同じようなサンプルが得られたので「これがきっとスタンダードな発音なのだ」と思い、一生懸命練習した記憶があります。
さらに„Birne“に限らず、当時私の中でこの曖昧な[i]の発音がはっきり聞こえる単語がいくつかありました。
それが„irgendwie“や„Kirche“といった語彙です。
とりわけ„irgendwie“はドイツ人が日常会話の中で非常によく使う単語で、日本語でいうところの「なんとなく」にあたるわけですが、-ir-というつづりの時の[i]ははっきりと発音されないのだ、という結論に当時の私は至ったのでした。
曖昧母音と言えばドイツ語では語末の/e/がはっきりと発音されないというのはよく知られており、この曖昧母音をSchwaと呼びますが、Schwaとしてはこの-ir- の/i/の発音は挙げられていませんし、私自身も少し性質が異なるような気はしています。
ただし具体的に何が違うかというのは、表現できないというのが私の現状です。
スタンダードだと思っていたけど…
そして月日は流れ、私がドイツで学生生活をし始めた頃、WGのルームメイトが私の„Birne“の発音をまた指摘してきたのです。
彼女はなんと「なんだかあなたのBirneの発音、私の発音と違うわ。[i]って発音していないでしょ?」と言ってくるのです。
これにはとても混乱しました。「で、でも、私の彼氏は[i]と発音したらそれを指摘してきたんだよ?」と言うと、手を払いながら„Ach was! Der ist doch Berliner!“(「あらそんなこと!でも彼はベルリン人じゃない!」というような感じでしょうか)と冗談っぽく言うのです。
私のルームメイトはシュヴァーベンの出身で、ir-の発音の時も/i/を非常にしっかりと発音する人なのです。
実際、私は今シュヴァーベン地域に住んでいますが、地元がこのあたりのご近所さんにも同じ話をしたところ「確かに意識はしていなかったけど、私とあなたたちの„Birne“の発音ちょっと違うね」とおっしゃっていました。
けれどそこまで意識していたことはなかったそうで、そもそも発音のバリエーションがあるとも思っていなかったようです。
ただし、このバリエーションについては、この間の挨拶の話やその他語彙の違いのようにはっきりとした方言差と結論づけるまでには至っておらず、今後も引き続き調査をしていく中でまたどういったバリエーションにあたるものなのかを検討してみたいと思っています。
ドイツ人の中でも気になった人がいた模様
…とはいえ、この手のバリエーションの話は地域による違いなのかもしれない、と考えるのはもしかしたら自然なのかもしれません。
この発音についてインターネットで調べてみたところ、ドイツ語のサイトで„Gute Frage“というプラットフォームで立てられた14年前のトピックを見つけました。
ここでは質問者が、おそらく発音に関して„Birne“と言うか„Bürne“と言うかということを、サイトを訪問する利用者の方々に質問しています。
彼女はこのなんとも言えない曖昧な/i/を/ü/で表現しているのがまた興味深い点なのですが、いくつかある回答の中に「たとえばケルンのあたりではこのiの発音がiやらöやらüの混ざったような音になるよ」というものや、「ブレーメンでは„Bürne“と言うよ」というような地域と関連づけた回答が見られました。
このなんとも言えない音をネイティブの人たちが既存の文字や発音を使って説明する様子もとても興味深いのですが、曖昧な/i/の発音に関しては南ドイツではなく、もう少し北の方の地名が挙げられているのは特筆すべき点かと思います。
さて、私の発音は2回反対のことを言われたわけですが、それでも一生懸命練習したし、何せ長いことベンラート線よりも上(ギリギリではありますが)に住んでいたこともあり、現在では曖昧な音の方に口が慣れているようです。けれど今日一番伝えたいのは「„Birne“の発音はどっちでも良いんだ!」ということですので、このir-のバリエーションに関しては自分が発音しやすいように発音していきましょう!
参考文献
https://www.gutefrage.net/frage/birne-oder-buerne-

日本でドイツ語言語学を専門に修士号をとったのち、ドイツへやってきて7年が経過しました。ドイツ語と日本語を日常で使いながら生活する中で気づいたことばに関するお話を、言語学の専門知識を織り交ぜながらこのブログの中でお伝えできればと思います。
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