ドイツ語法律翻訳(2.法律用語と約束事)

トランスユーロアカデミーでは、一般に学ぶ機会が少ない、ドイツ語の法律文書の翻訳を学ぶことができます。(5/26準備中)ドイツ語の法律文書を学ぶ方が、その取っ掛かりになるように、ドイツ語の法律翻訳について、トランスユーロの翻訳者さんに「学び方」を書いてもらいました。興味のある方は是非お読みください。

 

  ドイツ語法律翻訳(2.法律用語と約束事)

 

独日の法律用語

 

前回、「法律業界特有の約束事(言いまわし)」について触れるだけで、その中身について説明していませんでした。今回は、それを中心にしてお話をしてみたいと思います。

まずドイツ法ですが、とにかく略語が多いです。最初はこれを調べるのが大変です。とはいえ、今はグローバルに展開しているネット社会ですから、ネットで「法律用語略語集」などいくつも出てきます。

例をあげてみますと、日本国憲法に相当する「ドイツ連邦共和国基本法」”GG”(Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland)、市民生活に密着した法である民法典が”BGB”(Bürgerliches Gesetzbuch)となります。また、「憲法第9条」や「民法90条」の「条」に相当する言葉には”Artikel”と”§”があります。前者の”Artikel”はドイツ憲法である基本法に使います。その他の法律は、”§”と書いて”Paragraph”と読みます。

ついでに、条文の項目数字について書いておきますが、基本的に省略形で書かれます。この点も最初は面倒なところですが、繰り返し出てきますので、すぐに慣れます。基本法は、”Art. 3 Abs. (Absatzの省略形)3 Satz 2 GG”(法の前の平等、障碍者差別の禁止に関する規定)と表記され、「基本法3条3項2文」と訳します。また民法を例にとりますと、”§§286 Abs. 1, 288 BGB”は「民法286条1項、288条」(『民法典』が法典としての正式名称ですが、条文の引用については「民法」が通例です)と訳します。この”§”がソフトの関係などで上手く画面に出ないときは、”SS”で代用されます。

 

特有の約束事の例

 

それでは、実際に翻訳してみましょう。

次のドイツ語をどう訳しましょうか。“Die Klage wird abgewiesen.“これを直訳すれば、「この訴えは却下される。」になりますが、ここで注意しなければならないのは、“abweisen“の過去分詞である“abgewiesen“が「却下される」と「棄却される」という二つの訳が可能であることです。

この二つは、日本法上、厳密に区別されなければなりません。或る人が「貸した金を返せ」と訴えたときに(民事訴訟)、訴える利益が存在しないものだったり、訴えそのものに形式上の不備がある場合、極端なことを言えば、訴える裁判所を間違えたり(こういうことは、法律の専門家でも複雑な事件では実際にあります)、中身に入らず(審理をせず)門前払いすることを「却下する」といいます。これに対して、訴えを取り上げて「お金を貸したという事実を証明できませんでしたね、あなたの言い分は認められません。」と訴えを却けることを「(請求を)棄却する」といいます。ですから、上の一文は文脈にもよりますが、「本件訴えは却下される。」と訳すことになります。

このように、日本法はドイツ法を大元の手本にしているとは言っても、大事なところで違うこともあります。判決の翻訳にかぎりませんが、ドイツ語の法律文書を扱うときには、日本法との対応関係、それぞれの独自性、両者の相違を含んだ対応関係を意識しておく必要があります。


ドイツ語を直訳するだけではなく、正しい用語を選ぶには日本の法体系についても勉強することが必要なのですね。

ドイツ法と日本法の違いも、ドイツ語法律文書翻訳講座に組み入れていくことになっています。翻訳だけではなく、法律の知識も同時に学んでいきましょう。

 

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