ドイツ発モダンダンス 

ドイツは世界に誇る著名なモダンダンスの舞踏家、振付家を生み出してきた歴史があります。ドイツのモダンダンスは、古典的かつ伝統的な舞踏の形式であるバレエへのアンチテーゼとして20世紀初頭のワイマール共和国時代のドイツ語圏で誕生し、世界的な発展を遂げ続けています。2014年にはこのモダンダンス及び体系化された指導法が、UNESCOの無形文化遺産にも登録されました。日本でも早くから注目され、国際的な評価を得ている日本の前衛舞踏である『暗黒舞踏』のルーツともなっており、大野一雄(1906‐2010)や江口隆也(1900-1977)、宮操子(1907‐2009)といった有名舞踏家らもドイツで研鑽を積んでいました。

マリー・ヴィグマンのスタジオ風景(1959)Photo by Bundesarchiv (CC BY-SA 3.0 DE)
マリー・ヴィグマンのスタジオ風景(1959)Photo by Bundesarchiv (CC BY-SA 3.0 DE)

 

モダンダンス、ノイエタンツ、ドイツ表現主義舞踏

 

モダンダンスが誕生した歴史的背景として、20世紀初頭のドイツ語圏で盛んだった芸術運動および芸術表現のひとつであった表現主義(Expressionismus)の興隆があります。第一次世界大戦や大恐慌で混迷する社会で起こったこの一大ムーブメントは、それまでの形式的、写実的な表現方法と異なり、主体の感情や心理を表す手法が採用され、絵画のみならず、建築、文学、映画、そしてダンスなど幅広い分野へと拡大、発展していきました。ドイツ語圏発のモダンバレエは、コンテクストによっては、Neue Tanz、Ausdruckstanz(ドイツ表現主義舞踏)などとも云われ、解釈や分類は様々です。また、アメリカ生まれのモダンダンスとも異なり、その後、ポスト・モダンダンスやコンテンポラリーダンスなどへも派生し、一口では語り切れない展開を遂げています。

クラシックバレエのような形式からの脱却、新しい身体表現の形式を模索し探求を重ねるというコンセプトは、理論的には理解できるものの、実際の表現を鑑賞すると、ときに不気味で奇妙でもあり、観客の感情を揺さぶる点も特徴のひとつといえます。とはいえ、これはダンスに限らず、現代アートや現代音楽全般に云えることかもしれません。

ピナ・バウシュDVD『ピナ 踊り続けるいのち』
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ドイツ・モダンダンスの継承

 

ドイツのモダンダンスが卓越している理由は、その指導法を体系化させた実績にもあります。ドイツ表現主義ダンスの創始者といわれるルドルフ・フォン・ラバン(1879-1978)は、身体表現論や運動分析、ダンスの記譜法を理論的に確立し、ノイエタンツのパイオニアであるマリー・ヴィグマン(1886-1973)は舞踏学校を設立しました。また、名門フォルクバンク芸術大学の設立者クルト・ヨース(1901-1979)は、シグルド・リーダー(1902-1981)と共に、ラバンのダンス理論を基盤に、『ヨース・リーダー・メソッド』を展開させました。無形文化遺産となっているのは、ダンスのみならず、このように体系化されたダンスの訓練法・教育法も含まれているのです。

また、ラバン、ヴィグマン、ヨースは、舞踏と演劇の融合以上の表現方法である『タンツテアター』の表現者でもあり、この言葉は、その後ヨースの弟子であるピナ・バウシュ(1940-2010)へと継承され、世界的な評価を得ています。高い芸術性を誇るドイツのモダンダンスの世界は、成熟したドイツ文化のあらわれともいえるでしょう。

 


参考HP

参考文献

  • ライムント・ホーゲ・五十嵐蕗子訳 『ピナ・バウシュ タンツテアターとともに』 三元社 1999

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