
Znüni, Zvieri, Bettmümpfeli
スイスドイツ語講座その18:食事関連の用語
目次
振り返れば、これまでのスイスドイツ語講座では様々な食材や飲料が登場し、食べ物に関する内容が多かったような気がします。
食料は栄養補給の観点から生きていく上で必要不可欠なだけでなく、人生の楽しみのひとつにしている方も少なくはないことから、本ブログでもそれなりの頻度で採り上げてきたのはある意味妥当かもしれません。
また、過去には「いただきます」や「ご馳走様」など食卓で使用する表現はご紹介しましたが、食事そのものの言い方をまだ教えていませんでしたよね?
現地で生活していると仕事の合間に摂る「昼食」をはじめ、食事関連の言葉を日常的に使うのでそれらを知らないと相当困ります。
一方、旅行で短時間だけスイスを訪れた観光客も「朝食付きでの宿泊プランでお願いします」または「朝食は何時から何時までですか?」といった様々な場面で食にかかわる用語を用いることが必要です。
そこで、今回は知っていると色々なシチュエーションで意外と便利な食事用語についてのお話をさせていただきます。
各食事の名称
規則正しい生活を心掛けていれば、毎日朝食・昼食・夕食の三食を摂るのが一般的ですよね?
この場合における「食事」そのものは標準ドイツ語で「マールツァイト」(Mahlzeit)という単語で表し、スイスドイツ語では発音がちょっとだけ異なる「マールツィート」(Mahlziit)と言います。
こちらの言葉は基本的に軽食やおやつなどを含まない「ちゃんとした食事」を指しますので、本来は朝昼晩に摂取する三食のみに適用されるのです。
ただし、時代と共に進んでいる多様化の影響もあるせいか、昨今ではガッツリ飯を控えてサラダやヨーグルトだけを食事代わりにしてそれを「マールツァイト」または「マールツィート」と呼んでいる人も少なくはありません。
同様な傾向は日本でも確認されており、今ではパックゼリーを飲んで栄養補給を行い、当人にとってはそれが「食事」であるとの認識を持っている若者も多いそうです。
このように、内容については個人差があるものの、朝昼晩に食糧摂取をすること自体は固定概念として現在も残っています。
そして、標準ドイツ語でその三食を「フリューシュテュック」(Frühstück)、「ミッタークエッセン」(Mittagessen)、ならびに「アーベントエッセン」(Abendessen)と言います。
直訳すると「ミッタークエッセン」は「昼食」、「アーベントエッセン」は「夕食」で日本語と全く同じ表現を用いる一方、「フリューシュテュック」のみ「朝食」ではなく、「早い一部」を意味しており少し紛らわしいです。
ドイツでは元々、早朝から満腹になるほど食べると仕事で身体が動かしにくくなり、朝食は他の食事と比べて少なめの量にしておくのが好ましいとされ、「早い時間に摂る部分的な食事」の意味合いを込めて「早い一部」を指す「フリューシュテュック」との名称になりました。
それに対してスイスドイツ語では朝食を「モルゲネッセ」(Morgenässe)、昼食を「ミッタゲッセ」(Mittagässe)、夕食を「ナフテッセ」(Nachtässe)と呼んで、発音以外にも標準ドイツ語と異なる点が複数あります。
既にお気付きの方もいると思いますが、スイスドイツ語では三食全ての言い方が「○食」で統一されており、「早い一部」などの変わった言い回しは使用しません。
また、夕食に関しては標準ドイツ語と違って、「夕」に「食」ではなく、「夜」に「食」を当てているのです。
したがって、スイスドイツ語における三食の各名称を直訳すると「朝食」・「昼食」・「夜食」となり、標準ドイツ語の「早い一部」・「昼食」・「夕食」とは使っている単語に差異があることに注意しなくてはなりません。
スイス人は食事を略語で表している
ご覧の通り、標準ドイツ語とスイスドイツ語の間には三食の名前に根本的な違いがありますが、日常会話においてもうひとつ大きく異なる側面が存在します。
実を言うと、スイス人は先ほどご紹介した「モルゲネッセ」・「ミッタゲッセ」・「ナフテッセ」の言い方を普段あまり使わず、「ツモルゲ」(Zmorge)、「ツミッターク」(Zmittag)、および「ツナフト」(Znacht)という別の表現を用いることの方が多いのです。
これらは何かというと「朝食・昼食・夕食を食べる」の動作を表す際に使用される「ツモルゲ・エッセ」(Zmorge ässe)、「ツミッターク・エッセ」(Zmittag ässe)、「ツナフト・エッセ」(Znacht ässe)をそれぞれ略して名詞化したものです。
標準ドイツ語でも各食事を食べる動作に対して「フリューシュテュッッケン」(Frühstücken)、「ツー・ミッターク・エッセン」(Zu Mittag essen)、「ツー・アーベント・エッセン」(Zu Abend essen)の言い回しはあるものの、それらはあくまで動詞の形態でのみ用いられます。
考えてみれば、朝昼晩の食事に関しては上記でご紹介した名称が既に存在しており、それらに付随する動詞があるのも納得です。
そんな状況下で動詞を名詞化して既存の言い方と並ぶ新たな表現を作る必要性は全くないので、スイスドイツ語で何故わざわざこんな不要な別名が生まれて広まったのかが疑問であると言えます。
したがって、他のドイツ語圏においては当然ながら比較対象となる同様な現象は見受けられず、スイスだけ食事に関して従来の正式名称以外に「ツモルゲ」・「ツミッターク」・「ツナフト」という独自の呼び方を持っているのです。
しかも、これらはドイツ語単語の綴りに関する公式標準となっていることで有名な辞典「ドゥーデン」(Duden)にも掲載されていることから、言語学的に単なる俗語や流行り言葉ではなく、地理的にスイスに限定した正当なドイツ語として公認されています。
スイスで一日に食べる食事は三食だけじゃない!?
さて、これまで朝昼晩に摂る三食の名称についてご説明させていただきました。
とはいえ、国や地域によっては一日に食べる食事が三食だけではないこともございますよね?
例えば日本では午後3時に「おやつ」、イギリスでは「アフタヌーンティー」といったいわゆる四食目を食べる習慣があります。
そして、スイスにおいても「おやつ」に匹敵する午後の軽食を摂る文化が存在するだけでなく、なんと午前中にも同様な間食を食べるのが一般的です。
しかも、それらには当然ながら名前があり、午前の間食を「ツニューニ」(Znüni)、おやつに当たる午後の間食を「ツフィエリ」(Zvieri)と呼んでいます。
名称の由来については上記で言及した「ツモルゲ」・「ツミッターク」・「ツナフト」と同じ食べる動作が元になっていますが、間食は朝昼晩の代わりに時刻を入れているのが大きな違いです。
スイスドイツ語で9時は「ニューニ」(Nüni)なので、「(午前)9時に食べるもの」を指して「ツニューニ」となります。
同様に、4時はスイスドイツ語にて「フィエリ」(Vieri)であることから、「(午後)4時に食べるもの」を表して「ツフィエリ」です。
このネーミングからスイスでは間食を摂る時間が9時および4時であることが窺えるものの、日常生活においては時刻がそこまで正確に決まっておらず、ツニューニは概ね9時から10時の間、ツフィエリは3時から4時の間にいただきます。
実際に何かを食べるかどうかは別として、スイス国内では学校であろうが職場であろうが「ツニューニ」と「ツフィエリ」を摂るための休憩時間は例外なく確保されているのが当たり前です。
こういった状況はスイス以外のドイツ語圏全域で見受けられ、ドイツやオーストリアなどでも午前と午後に必ず間食用の時間が設けられています。
そして、その呼び方は地域によってかなり異なり、「ツフィエリ」に該当する午後の間食は南ドイツで「フェスパー」(Vesper)または「ブロートツァイト」(Brotzeit)と称しており、北ドイツでは「フォフタイン」(Fofftein)の呼称を用います。
さらに、オーストリアでは「ヤウセ」(Jause)が最もメジャーな表現で、チロル地方など一部地域においては「マレンデ」(Marende)と呼ぶのが普通です。
一方、「ツニューニ」に当たる午前の間食についてはそれを摂る習慣があるにも拘わらず、不思議なことに標準ドイツ語のみならず、それぞれの方言でも名称がございません。
理由は不明ですが、おそらく朝食を軽食のみで済ませているドイツでは午前に休憩を取る習慣があるとはいえ、そこで食事をするという発想はなかったので、スイスのように午前の間食を指す名前を作るのも不要だったと考えられます。
ただし、ドイツの殆どの小学生や労働者は午前の休憩でちょっとした腹ごしらえをしており、誰がどう見ても間食の時間になっているのに、何故か今でもそれを表す表現はありません。
スイス人は就寝前も食べる
このように、スイス人は間食も含めば一日5回も食事をするのが普通ということになり、読者の中には「スイスの人ってどんだけ食べるんだよ?」と、首をかしげたくなる方もいるのではないでしょうか?
そんな皆様に追い打ちをかけるつもりはございませんが、実を言うとスイスでは「ベットミュンプフェリ」(Bettmümpfeli)と呼ばれる6回目の食事まで存在するのです。
これは元々小さな子供が就寝時間になると行儀よくベッドに向かうことを促すために、親がお菓子をあげて子供の機嫌を取る手段として生まれました。
子供が寝付かないまたは寝る気がないことに頭を悩ませている親は決してスイスのみならず、世界中に大勢いて、日本でも子育てにおける課題になっています。
そこで、各国で成功法のひとつとなって広まったのが、親が童話を語ったり、絵本を読んであげたりするベッドタイム・ストーリーです。
しかし、子供によっては語られる内容に集中して逆に寝なくなるケースもあるので、スイスでは「グズグズ言わずに寝てくれるならお菓子をあげる」という単純でありながらも有効な方法を編み出しました。
もちろん、歯を磨いた後にお菓子を食べさせることや、不規則な食事を摂らせることに対する抵抗感から、就寝前に食べ物を与えない両親も多いです。
私自身が育った家庭もそうでしたが、結局は宿泊を伴う学校の遠足や修学旅行、ボーイスカウトなどで「ベットミュンプフェリ」の存在を知ることになりました。
したがって、全ての家庭でそれが一般的ではないものの、スイスでは学校教育の一環で「ベットミュンプフェリ」を教えていることから、スイスの食文化として定着していると言っても過言ではありません。
また、その影響もあってのせいか、スイス人は成人した後も、夜中に小腹が空いた際に摂るいわゆる「夜食」を「ベットミュンプフェリ」と称する傾向があります。
因みに、スイス以外にも就寝前に何かを食べるのが一般的な国や地域があるかと問われるとドイツ語圏全域やフランスなどでも同様な習慣が確認できますが、またしてもそれに該当する言葉が存在しないのが現状です。
スイスに比較的近いドイツのバイエルン州およびオーストリアのみ、「ベットミュンプフェリ」によく似た「ベットフップフェルル」(Betthupferl)の名称があります。
しかし、この単語は「就寝前のお菓子」だけでなく、「ベッドタイム・ストーリー」を指す表現でもあるので、完全な同意語ではないことに留意する必要があります。
食事に関連する用語についてのお話は如何でしたか?
読者の中には、まずスイス人が一日に摂取する食事の回数に驚かれた方が多いと思います。確かに、朝食・昼食・夕食以外に午前と午後の間食、さらに就寝前のお菓子まで含むとスイス人は一日に6回の食事をすることになり、カロリーの摂り過ぎなど色々な懸念が出てきますよね?
とはいえ、これはあくまでスイスの食文化として存在するもので、一日に6回食事をする必要は全くないですし、食べる内容も自由です。
そのため、ちゃんとした食事は朝昼晩の3回のみとし、間食はコーヒーやお茶だけで済ませる人も少なくありません。
今回はそういったスイスの食事事情をご紹介すると共に、それぞれの場面で使用する言葉を学んでいただきたいと考えました。
しかし、皆様もスイス人と同じ食習慣を身に付ける必要は全くございません。
肥満は様々な健康問題に繋がりますので、一日に6回も食事を摂るのはむしろ避けるべきです。
したがって、スイスを訪れる機会があっても現地の人々のペースに流されず、普段通りの体調管理を行うようにしてくださいね。
では
En guete!
Birewegge
今回の対訳用語集
日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
規則正しい | geregelt
(ゲレーゲルト) |
greglet
(クレグレト) |
朝食 | Frühstück
(フリューシュテュック) |
Morgenässe/Zmorge
(モルゲネッセ/ツモルゲ) |
昼食 | Mittagessen
(ミッタークエッセン) |
Mittagässe/Zmittag
(ミッタゲッセ/ツミッターク) |
夕食 | Abendessen
(アーベントエッセン) |
Nachtässe/Znacht
(ナフテッセ/ツナフト) |
9時 | neun Uhr
(ノイン・ウアー) |
Nüni
(ニューニ) |
午前の間食 | なし | Znüni
(ツニューニ) |
4時 | vier Uhr
(フィアー・ウアー) |
Vieri
(フィエリ) |
おやつ | Vesper/ Brotzeit/Fofftein
(フェスパー/ブロートツァイト/フォフタイン) |
Zvieri
(ツフィエリ) |
(就寝前の)夜食 | Betthupferl
(ベットフップフェルル) |
Bettmümpfeli
(ベットミュンプフェリ) |
小腹 | leichter Hunger
(ライヒター・フンガー) |
liächte Hunger
(リエフテ・フンゲル) |

スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。
Comments
(0 Comments)