中世ドイツの慣用句

 

先日、私が昔ベルリンで下宿していた下宿先のブリギッテおばさんから、Redewendungen des Mittelalters (中世の慣用句)」というタイトルの本が送られてきました。

ブリギッテおばさんは、数年前に定年退職して引退生活をおくっていますが、昔からすごい読書家(かつすごいヘビースモーカー)で、彼女が読んで面白かった本をたまに送ってきてくれるのです。

私が住む街コブレンツは、ライン川沿いにあり、川沿いには数キロメートル間隔で中世の古城やその遺跡が残されています。

そんな光景を目にしながら、「中世の時代は騎士が馬に乗って駆け回っていたのかな~」と当時の様子を想像するのもワクワクしますが、この本によると、現在のドイツで使われている慣用句の中には、中世に起源を持つものが沢山あるそうです。

今回はその中から、ドイツ語学習者の皆さんも知ってるかもしれない慣用句をご紹介しますね!

 

 

steinreich sein(石裕福である)

 

これはsehr wohlhabend sein(非常に裕福である)」ことを意味する慣用句です。

でもどうして「Gold(金)」とかじゃなくて、「Stein(石)」なのか?!

その理由は中世の住宅事情にあったようです。

中世において、貧しい庶民たちは木で建てた家に住むことが一般的でした。

石材を使った家は、石材を削る作業に相当な手間とお金がかかったため、石造りの家を建てることができるのは、土地を所有する裕福な領主貴族に限られていたそうです。

貴族たちが石造りの家に好んで住んでいたのにも理由があります。

石造りの家はなにより頑丈で、敵からの襲撃や農奴の反乱、悪意を持った親族からの復讐など(特権階級の人々は敵が多かったのですね。)に耐えることができる造りだったからです。

これら石造りの家は多くが塔の形で建てられ、それが今現在も残る城や城塞の形へと発展していきました。

中世後期に入り、裕福な市民が出現するようになると、彼らはこぞって立派な石造りの家を建てたそうです。

彼らはsteinreichでありました。

 

Blau machen(青くする)

 

これはunentschuldigt fehlen(無断で学校や仕事等を休む)」意味の慣用句です。

しかし黒でも赤でもなく、なんで青色がサボることに関連するのか?

その理由は中世の衣服事情にありました。

中世の時代、貧しい庶民たちはカラフルな衣服を着ることは許されず、目立たない天然色である茶色、灰色または暗めの青色(藍色)の衣服に限って着ることが認められていました。

布を藍染するために、当時はアブラナ科の二年草で葉中に藍色素を含むウォード(ホソバタイセイ)が使われれていました。

布を暗い青色に染める工程は、特定のpH値を持つ染液の中に布を一日中浸けておき、その後乾燥させて空気に触れさせることで藍色を発色させるというものでした。

この染液の準備には、なんと大量の尿が必要とされていたらしく、このため染物師は前日に大量のビールを飲んでいたそうです(笑)。

尿入りの染液に布を一日中浸けておく日は、前日に大量のビールを飲んで酔っ払っていた染物師は無断で仕事を休んだそうです。

つまりblau gemachtだった訳です。

17世紀になり、インドからインド藍が伝わると、ウォードの葉から採る青色染料は、インド藍に取って代わられました。

それにしてもビールを飲み過ぎて翌日仕事や授業をサボるというのは、現代のドイツにも通じるような。。。

 

Schwein gehabt!(豚を手に入れる)

 

これは「特に何もしていないのに幸運を得る、予期せずにラッキーなことに遭遇する」という意味の慣用句です。

現代のドイツでも豚はラッキーシンボルですが、その由来は中世の時代に遡ります。

中世でも、事あるごとに様々な種目の競技会が開催されていました。

特に人気があったのが、競馬と射撃で、勝者には価値のある賞品が与えられました。

例えば、1448年の競馬大会では、優勝者には当時大変貴重だった緋色の織物が、二位の者にはハイタカが、三位の者には石弓(中世の武器)が与えられたとの記録が残されています。

そして、最下位の者には慰めとして残念賞が贈られていました。

当時はその残念賞が「豚」だったそう。

最下位の者は、豚を駆り立てながら家路に着くので、町中の笑いものにされ、大変な恥をかいたとはいえ、豚一匹をもらえるのは家族にとって大変有難いことです。

という訳で、Schwein gehabt!」は結局のところ「Glück im Unglück!」だったのです。

それにしても中世でも、現在のゴルフコンペのブービーメーカー賞があったんですね!

 

 

中世に起源を持つ慣用句は他にも沢山ありますが、ドイツ語も時代と共に変化していくもの。

新しい慣用句が生まれていく一方で、残念ながら絶滅の危機に瀕する慣用句もあります。今回ご紹介した慣用句は、いずれも現在のドイツで通じる言い回しですが、その起源や背景を知るのもなかなか興味深いものです。


参考文献

Gerhard Wagner,「Schwein gehabt!  Redewendungen des Mittelalters」, REGIONALIA Verlag, 2011, p. 11, p.84, p.109.

 

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