ドイツの教育制度

4月、新年度が始まりました。進学や就職で、新しい生活が始まる季節です。学生たちも新しい環境に緊張と期待が入り交じっていることでしょう。さて、日本では4月1日から新学期が始まりますが、ドイツの学校の新学期は8月1日に始まり、大学の新学期は原則的に10月に開始します。教育に関する日本とドイツの違いは、開始の時期だけでなく、制度そのものに大きな違いがあります。

単線型教育制度、複線型教育制度

教育制度における日本とドイツの共通点は、初等教育が6歳で始まる点のみと言っても過言ではないでしょう。今日の日本は、戦後に導入された小中高の6・3・3制の単線型の学校制度を採用しており、修業年限・学習内容も共通していますが、ドイツでは複線型学校制度といって、日本の小学校や中学校に相当する学校の種類が複数あり、修業年限も異なっている学校が併存している制度を取っています。また、ドイツは16の州から成る連邦国家で、教育制度においても、州ごとに修業年数や教育内容が異なります。例えば、日本の小学校にあたる基礎学校は、ベルリンやブランデンブルク州では6年、その他の州では原則的に4年間となります。初等、中等教育においては、州に設置される文部省に権限が与えられているので、地域によって年数のみならずカリキュラムも多様です。以下をご覧下さい。

ドイツの学校系統図(文部科学省HP参照)

 

10歳で将来の道を決定?三分岐型システム

ドイツの義務教育は原則9年間(州によっては10年)で、初等教育(基礎学校)4年間と中等教育の前半5年間にあたります。まず、初等教育を終えると、5年、あるいは6年間の中等教育Iに進みますが、ここで原則3つの選択肢が与えられます。大学進学を目指すなら8年制(もしくは9年制)のギムナジウム、それ以外は職業訓練への道へ進みます。実科学校とよばれるレアルシューレは6年制で卒業後は全日制の職業学校へと進み、職業訓練を受けて公務員や技術者となります。手工業系の職人(美容師、板金工、パン屋など)を目指す場合は5年制のハウプトシューレとよばれる基幹学校へと進学、卒業して、職業学校入学資格を取得する必要があります。また州によっては上記3つの学校形態を包括した総合制学校(ゲザムトシューレ)もあります。

この、ギムナジウム・実技学校(レアルシューレ)・基幹学校(ハウプトシューレ)の三分岐型システムがドイツの教育制度の大きな特徴です。学校間での転学は、基幹学校からギムナジウムは、ほとんど例がなく、実科学校からギムナジウムへの編入を目指す生徒はいますが、難易度も高く、ほとんどが就職の道へと進むそうです。

 

 

 

そもそも日本も戦前は、ドイツのような複線型教育制度をとっていて、初等教育を終えると、旧制中学校、高等女学校、実業学校と進路ごとに早期分岐する教育制度でした。戦後の単線型教育制度への改革は、性別や階層によってその後の進路が早期分断される制度の見直しとして、教育の機会均等がねらいであったといわれています。今日ドイツでは、国内に増加する移民の子供たちの不十分な教育環境が学力格差を生み出し、ドイツ全体の学力低下が懸念されていたり、グローバル化に伴い、国際基準に合わせるため、ギムナジウムの修了年次を下げたりと試行錯誤の教育改革が行われています。

 

今回は少々複雑なトピックになりましたが、どこの国でも「教育」は議論の尽きない分野です。ドイツの教育制度を知って、皆さんはどのような感想を持たれたでしょう。ご意見をお待ちしております。

 

 

参考HP

第23回 ドイツの教科書

文部科学省

ベネッセ教育総合研究所

学びの場.com

ドイツニュースダイジェスト

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(2 Comments)

  • 受験戦争―日本とドイツ、厳しいのはどっち? - トランスユーロアカデミー

    […] 実は、ドイツにはいわゆる大学入試試験はありません。日本とは全く異なる教育システムのため、小学校を卒業する10歳の時に大学進学を目指すかどうかの進路を選択する必要があります。(ドイツの教育制度)この場合、8年制(もしくは9年制)のギムナジウム(中等教育機関)に進んだ後、アビトゥーアとよばれる卒業資格試験を受けることになります。このアビトゥーアに合格することが大学入学の資格となります。 […]

  • ドイツの子供に人気の職業は? – トランスユーロアカデミー

    […] ドイツでは、日本の小学校にあたる初等教育を卒業する10歳の時点で、大学進学を目指すか否かを決定しなければならず(ドイツの教育制度参照)、進路選択は早い段階で訪れます。夢見る職業への道を10歳で決めてしまうのは、少し早いような気もしますね。 […]

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