大学か、Ausbildungか -ドイツの若者が直面するキャリアの選択

ドイツの子どもたちは、小学校にあたる基礎学校(Grundschule)を卒業する10歳の時点で、すでに人生の大きな分岐点に立ちます。

大学進学を目指すか、職業訓練の道へ進むか——その方向性がこの年齢でほぼ決まるのです。

その職業訓練の道として広く知られているのがアウスビルドゥング(Ausbildung)です。

近年、大学進学を選ぶ若者が増える一方でAusbildungを選ぶ若者が減り続けており、大学かAusbildungかという選択の価値をめぐる議論が、ドイツ社会で活発になっています。

 

 

Ausbildungとはどんな制度?

 

Ausbildungとは、学校教育を終えた若者が特定の職業に就くために受ける、国家が認定した職業訓練制度です。

学校に通うのではなく、実際に企業に所属しながら学ぶ点が、日本の専門学校とは大きく異なります。

対象となる職業はあらかじめ国によって定められており、訓練の内容や期間も職種ごとに統一された基準があります。

つまりどの企業で訓練を受けても、同じ職業なら同じ資格が取れる仕組みです。

その最も主流な形式がデュアルシステム(Duale Berufsausbildung)と呼ばれるものです。

 

訓練生は企業と契約を結び、週3〜4日は職場で実務をこなしながら給与をもらい、残りの1〜2日は職業学校(Berufsschule)で理論を学びます。

期間は職種によって2〜3年半ほど。

大工、料理人、自動車整備士、看護師など350以上の職業が対象で、修了すればドイツ商工会議所(IHK)が認定する国家資格に相当する資格が得られます。

学費を払うどころか、稼ぎながら資格を取れる制度というわけです。

特に近年注目されているのが、大工や配管工、電気技師といった手工業系のAusbildungです。

AIがデスクワークを次々と代替していく時代において、実際に手を動かす職人仕事は奪われにくいスキルとして改めて見直されています。

 

 

それでも若者が離れていく理由

 

ところが現実には、Ausbildungを選ぶ若者の数が年々減り続けています

2000年代初頭に年間60万件を超えていた新規訓練契約数は、2023年には約48万件にまで落ち込みました。

約20年で2割以上の減少です。

その一方で、同じ期間にドイツの大学進学率は33%から57%へとほぼ倍増しています。

二つの数字が、まるで逆方向に動いているように見えますね。

 

背景にあるのは、大学を出た方が収入も安定も高いという根強い意識です。

職業訓練は大学に行けなかった人の選択肢と見なされる空気がまだ残っており、優秀な若者ほど大学へ向かう傾向があります。

ドイツ連邦職業教育研究所(BIBB)によると、2020年のコロナ禍には新規契約数が1992年以来初めて50万件を割り込み、その後も完全な回復には至っていません。

手工業の分野では訓練生の空席が目立ち、深刻な人手不足が続いています。

また、近年ではギムナジウムを卒業してAusbildungに進む若者も増えています。

大学入学資格(Abitur)を持ちながらあえて職業訓練を選ぶわけですが、これにより訓練ポストの要件が全体的に底上げされ、本来Ausbildungを目指していた層が弾き出されるという皮肉な状況も生まれています。

ドイツでも、学位を取得しても希望の仕事に就けず挫折感を味わう若者が少なくないことを考えると、「とりあえず大学」という選択が必ずしも正解ではないのかもしれません。

 

マイスター制度に代表されるように、ドイツは長年職人の技術と誇りで産業を支えてきた国です。

その土台を担ってきたAusbildungが揺らいでいるとすれば、それはドイツ社会にとって小さくない危機かもしれません。

大学かAusbildungかという二項対立ではなく、自分の適性に合った道を選べる環境を整えることが大切、というのがドイツの識者たちの共通した意見のようです。

職人の国が、そのアイデンティティをどう守っていくのか。しばらく目が離せそうにありませんね。

 


参考HP

 

 

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