オーストリア人とはどんな人?

このブログでは、オーストリアの文化、社会、習慣等について色々と書いてきましたが、オーストリアに住んでいる人、つまり「オーストリア人」と呼ばれる人たちについてはまだ触れていないことに気付きました。皆さんは、「オーストリア人」と聞いたとき、どのようなイメージを思い浮かべますか? 今回はオーストリアに住んでいる人とは、一体どのような人なのかという疑問にスポットを当ててみたいと思います。

 

 

オーストリアは移民の国

 

2022年4月の人口統計データによると、オーストリアの全人口は9,027,999人に上り、初めて900万人を超えました (Statistik Austria)。900万人は東京都のような1000万超の大都市の人口に比べると国の人口としては少なく感じますが、オーストリア国内では人口900万人超えの情報は結構大きなインパクトを持って受け止められました。オーストリアの人口は、日本と同様に第二次世界大戦後から少しずつ増えていきました。しかし日本と大きく違う点は、全人口に占める外国人の割合が多いことです。戦後の経済成長により、ヨーロッパの内外からたくさんの人がオーストリアに移住してきました。現在では外国人の割合は全人口の17.1%(約150万人)に上ります(Statistik Austria (2022a) (https://www.statistik.at/fileadmin/publications/Demographisches-JB-2020.pdf))。したがって、オーストリアの人口について語るとき、オーストリアに住んでいる外国人の存在を無視するわけにはいきません。

 

 

 

 

オーストリアはヨーロッパの真ん中に位置しているため、元々周りの国から移住してくる人が多くいました。その昔ウィーンは、「東への門」と言われ、西ヨーロッパの国々と東ヨーロッパの国々を繋げる役目を果たしていました。しかも、第一次世界大戦まで存在したオーストリア・ハンガリー帝国はイタリアからハンガリーまで中央ヨーロッパの多くの地域を抱える大国であったという歴史もあります。現在、EU加盟国の中では誰でも自由に移住することができます。オーストリアに住む外国人のうち、51.8 %は他のEU加盟国からオーストリアに移住してきた人たちです。あまり不思議ではないかもしれませんが、最も多いのは、同じドイツ語を話すドイツからの移住者で、その割合は13.6%です。続いて、ルーマニア人(8.6%)、ハンガリー人(5.9%)、セルビア人(7.9%)、トルコ人(7.6%)となっています(Statistik Austria (2022a) (https://www.statistik.at/fileadmin/publications/Demographisches-JB-2020.pdf))。
このような事情から政府も最近では何らかの公式発表を行う際には冒頭で「Liebe Österreicherinnen, liebe Österreicher und alle Menschen, die in diesem leben」(親愛なるオーストリア人の皆さん、そしてこの国に住んでいるすべての皆さんへ)という呼びかけから始めます。

 

2020年のウィーン市の市議会議員選挙では、ウィーンには一体どのくらいの外国人が住んでいるかが話題になりました。なんとウィーン住民の約3割の人たちがオーストリアの国籍を取得していないので、選挙の投票権を持っていないことが、選挙前に大きなニュースになりました(Der Standard (2020)( https://www.derstandard.at/story/2000120139512/wien-wahl-knapp-jeder-dritte-wiener-darf-nicht-waehlen))。
EU加盟国内では移動が自由であるため、長期にわたってオーストリアに住んでいても、その大半の人たちは国籍を変更しません。ウィーンに住み、ウィーンで仕事をして税金を払っているにもかかわらず、住民の3割が選挙に参加できないことは、ウィーン市にとっても良いことではないという考え方もあり、外国人にも選挙権を付与すべきか政府内でも議論されています。

 

移民のおかげで安定する人口

 

一見したところ、オーストリアは日本と似たような問題を抱えています。地方の過疎化、高齢化の進行、出生率の低下などで将来への見通しが不安視されています。たしかに2020年は出生率が1.44%まで下がり、平均年齢は43.1歳まで上がりました。しかしオーストリアでは人口が減る心配はないと言われています。むしろ人口は2080年までに994万人まで増えると予想されています。この人口増加の原因は他国からオーストリアに来る移民に基づいています。例えば、オーストリアの国籍を所有している人の平均年齢は44.6歳ですが、国籍を持っていない人の平均年齢は35.7歳です(Statistik Austria (2022a) https:/www.statistik.at/fileadmin/publications/Demographisches-JB-2020.pdf))。
外国から移住して来る人はオーストリアの生命線だとも言えます。移民の中には苦しい状況から逃げて来た人もいます。実は、オーストリアの人口が今春に900万人を超えた大きな要因は、ウクライナから避難して来た約4万人の女性や子供たちの存在でした(Statistik Austria (2022b)(https://www.statistik.at/fileadmin/announcement/2022/05/20220426BevoelkerungApril2022.pdf))。
同じように2015年に戦時下のアフガニスタンやシリアから多くの若者たちがオーストリアに避難してきましたが、このときも彼らの存在により、数字上ではオーストリア人口のうちの高齢者が占める割合が減少しました。自ら望んで移住してきたのではなく、戦時下の危険な状況から安全な場所を求めて移住してきた人には、オーストリアの生活に慣れるのは簡単ではないでしょう。そして文化や言葉などが異なるので、多くの障害が待ち受けています。でも、私が現在住んでいる日本では、人口減少問題をしょっちゅう耳にし、これといった解決手段も見当たらないようですので、そう考えると、オーストリアにとって、移住してきてくれた人は人口減少を食い止めるとても大切な存在であると見ないといけません。

 

 

 

 

オーストリア人って誰?

 

オーストリアの、周辺諸国との繋がりの深さは人々の名字からも解りやすいです。オーストリアの東方と南方に住んでいる人は、たいていスラブ語派、例えばチェコ語やスロベニア語、またはスラブ語派ではないハンガリー語に由来する名字を持っています。例えば、Novák(ノヴァーク)、Svoboda(スヴォボダ)、 Novotný(ノヴォトニー)などのチェコの名字は良く見ます。家族は昔から代々オーストリアに住んでいても、名字はそのまま残るので、彼らが実は大昔にオーストリアに移住してきた人たちであることが判ります。要するにオーストリアは今も昔も周りの国の人や文化の流れによって大きな影響を受けているわけで、そう考えると、いわゆる「ザ・オーストリアン」のような、これぞオーストリア人という人は存在しないのだと思います。

 


 

参考ホームページ

 

Statistik Austria (2022a) Demographisches Jahrbuch 2020 (https://www.statistik.at/fileadmin/publications/Demographisches-JB-2020.pdf)

 

Statistik Austria (2022b) „Österreichs Bevölkerung hat Neun-Millionen-Marke” überschritten“

(https://www.statistik.at/fileadmin/announcement/2022/05/20220426BevoelkerungApril2022.pdf)

 

Der Standard (2020) „Knapp jeder dritte Wiener darf nicht wählen“

( https://www.derstandard.at/story/2000120139512/wien-wahl-knapp-jeder-dritte-wiener-darf-nicht-waehlen)

 

 

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