ドイツの教養を支えるレクラム文庫

 

黄色、オレンジ、赤、緑など一色使いの小さな文庫本。ドイツの伝統的な文庫本といえばレクラム出版社(Reclam Verlag)から出版されているレクラム文庫(Universal Bibliothek)

世界の古典文学作品を中心とし、ドイツの教養、教育、学問を支え、培ってきたといっても過言ではありません。

また、レクラム文庫は、日本の岩波書店が岩波文庫を刊行するにあたってモデルにしたとも云われており、廉価で持ち運び安い書籍を、より多くの人々に提供するというモットーの元に発展を遂げてきました。

 

自由主義運動時代に誕生したレクラム出版社

 

1828年にアントン・フィリップ・レクラム(1807-1896)によって創業されたレクラム出版社は、その父、カール・ハインリヒ・レクラム(1766-1844)が始めた閲覧ホールを備えた図書館「文学館」(Literarisches Museum)を基盤として創業しました。

当時はまさにドイツ文学における青年運動が勃興した時代。

自由主義運動の興隆も相まって、レクラム出版社は、政治的主張を持った革新的な出版社としてのスタートを切りました。

そして、レクラム文庫の創立は約40年後の1867年。

当時のドイツ(ドイツ連邦/Deutscher Bund)およびドイツ語圏では、著作権の保護期間が無期限となっており、文学作品の出版は容易ではありませんでした。

しかし、外国作品の翻訳においてはそれに当たらず、レクラム出版社はシェイクスピア作品出版において大成功をおさめ、この功績を以て、その後のレクラム文庫創立へとつながりました。

また1867年には、無期限であった著作権の保護期間が、作者の没後30年と成った新協定が成立した事もレクラム文庫創立の重要な背景となりました。

知識教養を支配階級の特権とせず、反体制的な出版社として出発したレクラム出版社でしたが、19世紀後半にはプロシア政府から、そして20世紀前半にはナチス・ドイツの台頭により、雑誌の廃刊に追い込まれたり、書物が発禁となったりした歴史もあります。

しかし今日では主に古典文学を扱う伝統的な出版社としてその名を掲げています。

 

取り扱いジャンルの多様さ

 

「世界文学の高山連峰」との賞賛のあるレクラム文庫。

すべての文庫には通し番号がふられているのが特徴的です。レクラム文庫の第一号、二号には、ドイツ古典文学の金字塔であるゲーテ『ファウスト』が刊行されており、今日、公式サイトにおいては2.99ユーロで販売されています。

また取り扱いジャンルは文学ばかりでなく、歴史、芸術、音楽、演劇、社会、政治、自然科学、宗教といった人文科学を中心としたラインナップを誇り、日本語作品の俳句なども刊行されています。

ちなみにこの文庫本の一番の特徴ともいえる一色使いの装丁ですが、これはカラー毎にカテゴライズされているのです。

一番多い黄色はドイツ語及び世界文学の古典作品(翻訳含む)、オレンジは対訳版、赤色は外国語作品の原文にドイツ語の語句解釈を添えたヴァージョンとなっているそうです。2010年代に入ってからは、さらに様々な装丁のシリーズが刊行されており、ひと昔前の簡素なレクラムの書籍というイメージは今日では希薄な様子です。

19世紀に誕生したレクラム文庫。

20世紀のふたつの大戦があった激動期、東西ドイツ分断とその後の統一を果たした時代、そして21世紀の今日に至るまで、ドイツでレクラム文庫に触れなかった人間はほとんどいないだろうと云われるほど、教育や研究の場、及び市民生活に浸透しています。

ドイツ語学習がひと段落したら、レクラム文庫でドイツの文学作品を原文で読む挑戦をしてみてはいかがでしょうか。

 


参考HP/参考文献

 

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