ドイツに“新卒”はない? 就活文化の違いと、揺らぐ労働市場

 

日本では、毎年4月になると、初々しいスーツ姿の若者が一斉に社会人としての第一歩を踏み出します。

ですが、この光景はドイツではあまり見られません。

ドイツでは、日本のような年度による4月一斉スタートの文化はなく、大学も夏学期は4月から始まるものの、10月ごろに始まる冬学期が一般的です。

また、現在はBachelor(学士)・Master(修士)制が主流ですが、かつてはMagisterやDiplomといった独自学位も広く用いられており、学生の在学期間や卒業時期も日本ほど画一的ではありませんでした。

そして何より、日本のような新卒一括採用という仕組みがありません。

卒業したばかりの学生も、経験者の転職希望者も、それぞれ空いているポジションに応募していきます。

そこには、日本とはかなり異なる働くことへの考え方があります。

 

 

新卒一括採用より“欠員補充型”の社会

 

 

ドイツの採用は、毎年まとめて新人を採る方式ではなく、必要なポストが空いた時、あるいは新たな業務が生まれた時に、その都度募集するスタイルが基本です。

求人票には担当業務、必要資格、経験年数などが細かく記され、応募者はそれに合わせて個別に応募します。

そのため、日本で見られるような一括のポテンシャル採用は限定的です。

学生であっても、在学中から職歴づくりを意識するのが一般的で、Praktikum(実習・インターン)やWerkstudent(学生として企業で働く制度)を通じて実務経験を積む人も少なくありません。

日本では卒業してから社会へ出る感覚が強いのに対し、ドイツでは在学中から少しずつ職業社会へ入っていくイメージです。

また、大学進学だけが進路ではありません。

ドイツではAusbildung(職業訓練)という制度が重視されてきました。

企業で働きながら職業学校に通い、資格と経験を同時に得る仕組みで、多くの若者にとって社会への入口となってきました。

 

 

 

なぜ求人が減っているのか

 

こうした職歴重視の仕組みは、長年ある前提の上に成り立っていました。

その前提とは、慢性的な人手不足です。

ところが近年、その前提が揺らいでいます。

連邦雇用庁によれば、2025年の新規求人件数は過去25年間で最低水準となり、平均失業率も6.3%へ上昇しました。

背景の第一は、エネルギーコストの高騰です。

ロシア産天然ガスへの依存が大きかったドイツは、ウクライナ危機以降、調達構造の転換を迫られました。

製造業の電力・ガス負担は増し、化学、鉄鋼、ガラスなどエネルギー多消費産業では、国内投資の縮小や海外移転の議論も広がっています。

第二は、中国との競争激化です。

中国は長らくドイツ自動車産業の重要市場でしたが、近年はBYDなど中国EVメーカーが急成長し、VW、BMW、メルセデス・ベンツも厳しい競争にさらされています。

2025年にはドイツ産業全体で約12万人の雇用減少が報じられ、その中心の一つが製造業でした。

第三は、産業転換と人材ミスマッチです。

ドイツはIndustrie 4.0を掲げ、製造業のデジタル化・自動化を進めてきました。

しかし従来型の職種需要が減る一方、IT・AI・電動化分野では人材不足が続いています。

仕事はあるのに、経験や技能が合わないというズレが広がっているのです。

さらに若年層のAusbildung(職業訓練)離れも課題です。

大学進学志向の高まりや人口減少もあり、とくに地方や中小企業では訓練枠を埋められないケースが増えています。

求人があるのに応募者が来ない――そんな別のミスマッチも起きています。

 

 

ドイツには、日本のような「新卒カード」はありません。

学生も経験者も、それぞれの力で仕事を取りにいく社会です。

自由度が高い反面、早い段階から経験を積むことが求められます。

そして今、その労働市場そのものが変化の中にあります。

ドイツの就職事情を見ることは、働き方だけでなく、これからの経済や社会の姿を考えるヒントにもなりそうです。

 

 


参考HP

 

 

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