スイスの鉄道:チョコレートトレイン
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少し前まで寒い日々が続いていたと思いきや、いつの間にか気温も上がっており、梅や桜が咲く姿も拝見できて、季節はすっかり春になりましたね。
年間を通してこの時期が最も過ごしやすいと主張する方も少なくない一方、私自身は夏が一番好きです。
とはいえ、夏は熱中症や夏バテなど体調に注意する必要があるので、お出かけするにはやっぱり春から初夏が最適なのは否定できません。
過去の記事でも申し上げましたが、素敵な自然が多いスイスに関しては正にこれから訪れるシーズンが旅行にはベストです。

そのため、冬には決して味わえない夏季限定の楽しみ方もあります。
中でも外国人の間で好評なのがスイスの景色、街並み、そして食を満喫できる「チョコレートトレイン」です。
名前からして甘いお菓子を連想する人もいるかもしれませんが、チョコレートトレインとは期間限定しか運行しない特別列車で行く、スイスの特産品であるチーズとチョコレートを堪能するパッケージツアーを指します。
「限定」や「特別」のキーワードが付く列車であると聞いただけで鉄道マニアなら誰しもが興味を抱くことは間違いないものの、鉄道がさほど好きではない人にとっても非常に魅力的な内容なので、観光ガイドブックに掲載されることも多いです。
したがって、今回はスイス観光に関心があるものの、一般の観光客とは異なるスペシャルな体験をしたいと考えている方にピッタリのチョコレートトレインをご紹介いたします。
夏季限定の現地発着型パッケージツアー
今から約30年前に運航を開始し、国内外の観光客に大人気のチョコレートトレイン(Train du Chocolat)は、モントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道(MOB)、ベルン・レッチベルク・スィンプロン鉄道(BLS)およびツェントラル鉄道(zb)の3社が共同で運営する鉄道サービス「ゴールデンパス」(GoldenPass)ならびにスイスの老舗チョコレートメーカーによる現地発着型の日帰りパッケージツアーです。
当該ツアーはその名の通り、「チョコレートトレイン」と呼ばれる通常ダイヤとは別に運行する列車に乗り、スイスを代表する「グリュイエールチーズ」(Le Gruyère AOP)の産地を散策してチーズ工場を見学し、現存するスイス最古のチョコレートブランドである「カイエ」(Cailler)の製造工場兼体験型テーマパークを訪問するといった内容になっています。
チョコレートトレインで訪れる場所はスイスが世界に誇る特産品をより深く知ることができる名スポットであるものの、それらは通常アクセス性に優れず、個人でその全てを一日で巡るのは大変なことから、移動が予め手配されていて各施設も待ち時間なく合理的に見て回れるのが最大の魅力です。
そのため、本ツアーは積雪による影響を受けない5月から9月までの期間にのみ開催されるだけでなく、曜日も限定して(2026年度は火曜日・木曜日・日曜日に加え、金曜日や土曜日にも運行する時期があります)1日に1回しか実施されません。
また、一部の区間は専用バスに乗車して移動するため、参加者数に関しても制限があり、予約が必須となりますが、チョコレートトレインは国内からの旅行者に加え、外国人観光客の間でも好評なので、余裕を持って早めに手配しないとなかなか予約が取れないのが現状です。

レトロ感溢れる豪華観光列車に乗れる
チョコレートトレインが人気な理由としては、スイスの絶景を眺めながら、スイスの歴史的都市を訪問して、スイスの名産品を満喫するというスイスらしさを日帰り旅行で見て感じて味わう体験ができることにあるものの、その内容ひとつひとつにプライベートで同じ旅をしても堪能できない付加価値があるのが特徴です。
というのも、本ツアーはスイス南西部に位置し、ヨーロッパの最高峰である「モン・ブラン」(Mont Blanc)を始め、フランス・アルプスが最も綺麗に見えると謳われるレマン湖(Lac Léman)の東端にある都市モントルー(Montreux)でスタートし、世界文化遺産にも登録されている「ラヴォー地区の葡萄畑」の一部が広がる地域を通って最初の目的地へ向かいます。
その際、当該パッケージツアーのためだけに用意された専用の列車に乗って移動するのですが、これもまた通常の日常生活において乗車する機会がない、とてもレアな特典です。
その理由を詳しく説明しますと、チョコレートトレインでは、なんとあのイギリスの名作家アガサ・クリスティ(Agatha Christie)による長編推理小説で世界的に知られるようになった「オリエント急行」(Orient Express)と同じアメリカのプルマン社(Pullman Company)製ロビーカー(通称:プルマン車両)が採用されています。
しかも、参加者が実際に乗るのは今日運行する姿を見かけること自体が極めて珍しい1915年製の「ベル・エポック」(Belle Époque)と呼ばれる100年以上も前に造られた車両です。
古いとはいえ、当然ながら現代の鉄道車両基準を満たすための改造やリフォームが施されている一方、外観や内装は概ね当時の仕様になっているので、大半の方にとってはまたとないレトロな豪華観光列車での旅を楽しめます。
列車の一部に関しては、この旧式ではなく、特大サイズの窓を有する近代的なパノラマ車両になっていますが、いずれも一等席しか存在しないため、どちらに乗車しても特別感が味わえるようにしています。
また、乗車時間は約50分と比較的短いものの、車内ではホットドリンクとチョコクロワッサンが無料で提供され、他の列車旅では受けられないちょっとした気配りやサービスがあるのもチョコレートトレインの魅力です。

チーズの王様の世界を五感で堪能できる工場見学
そんなチョコレートトレインに乗って向かう最初の目的地は「チーズの王様」と称されるグリュイエールチーズ発祥の地であり、その名の由来にもなっているグリュイエール村(Gruyères)です。
以前はモントルーからグリュイエール村までの区間を列車で移動した後、市バスで市街地に行き、別の路線バスが次の場所へ連れていってくれるのが普通でしたが、現在は少し手前にあるモンボヨン村(Montbovon)で降車し、当該ツアーのためにチャーターされた2階建てバスに乗り換えて全ての個所を巡ることになっています。
そのため、特別列車での乗車時間は短縮された一方、それ以外の移動の快適性が大幅に向上しました。
そして、グリュイエール村で参加者を待ち受けているのはあの世界的に名高いチーズの製造工場である「ラ・メゾン・デュ・グリュイエール」(La Maison du Gruyère)です。
本工場ではグリュイエールチーズの製造に関する秘密などを、日本語も含む計13カ国語の音声ガイドで詳しく解説してくれるだけでなく、チーズ作りの実演まで間近で見られます。
また、貯蔵庫の様子が垣間見える映像を始め、グリュイエールチーズの裏側が覗ける様々な展示がある他、当然ながら工場内で作っている各種チーズの試食も可能です。
したがって、参加者は説明を聴き、製造現場を見て、実際の商品に触れながら香りを嗅いで食感を味わえるので、グリュイエールチーズの世界を五感で堪能できます。
さらに、工場見学の後はグリュイエールの旧市街で昼食および現地観光のための自由時間が設けられており、試食だけでは物足りず、グリュイエールチーズを使用した本場ならではの料理も食べたいという方がその欲を満たせる飲食店があります。
逆に、チーズはおつまみ程度にしておいてグリュイエール村を散策したい人には、様々な歴史的、文化的、ならびにレジャー施設が点在します。
例えば、かつて当該地方を領主として治めていた伯爵が建てた中世の古城や、あのSFホラー映画「エイリアン」(Alien)の生みの親で知られるH・R・ギーガー(HR Giger)が自ら企画し、ミュージアムとバーが併設されているテーマパークなどがあることから、各参加者はそれぞれの興味または趣味に応じた自由時間を過ごせます。

スイスを代表するチョコレートの全てが学べるガイド付きツアー
グリュイエールでの自由時間が終わると、再びバスに乗車して、今度は隣接するブロ村(Broc)にある「メゾン・カイエ」(Maison Cailler)を訪れます。
当該施設は1819年にフラソワ=ルイ・カイエ(François-Louis Cailler)によって設立された現存するスイス最古のチョコレートブランドの製造工場です。
元々、チョコレート製造用の機械メーカーとして創業し、スイスで初めて近代的なチョコレート工場を立ち上げたカイエは、板チョコ販売の第一人者とされています。
また、1911年にはミルクチョコレートの開発者で創業者の娘婿でもあるダニエル・ペーター(Daniel Peter)および世界初のヘーゼルナッツチョコレートを作ったシャルル・アメデー・コーラー(Charles Amédée Kohler)の会社と合併して本格的な海外進出を果たすと、1929年にはさらに画期的な粉ミルクを発明したネスレ(Nestlé)との吸収合併を経て、幅広いチョコレート製品を世に送り出すネスレグループのチョコレートブランドになりました。
このような背景もあって、「メゾン・カイエ」では、原料から出荷までのチョコレート製造に関する各工程を詳しく紹介してくれるだけでなく、チョコレートの歴史も当時の貴重な資料を通して伝えるガイド付きの見学ツアーが提供されるのです。
そして、チョコレートの甘い香りを散々嗅いで食欲が最大限に膨らんだ見学ツアーの最後には、なんと工場で造られている商品を実際に試食することまでできます。
この試食をもってガイドツアーは終了しますが、味見だけで満足しない方はその後の自由行動で施設内のショップでカイエが展開する全ての商品をアウトレット価格で購入したり、プロのショコラティエが指導するチョコづくり体験ワークショップに参加したりすることも可能です。
それ以外にも自社のチョコレートを使用した濃厚なドリンクが飲めるカフェがあるので、甘い物に目がない人にとって「メゾン・カイエ」は正にスイスを代表するチョコレートブランドの全てを知って体験できる夢のような場所です。
とはいえ、そんな楽しいひと時は長く続かず、しばらくするとバスでブロからモントルーへ戻り、チョコレートトレインの日帰り旅行も終わりを迎えます。

チョコレートトレインのご紹介は如何でしたか?
スイス旅行を検討する際、大半の人は滞在期間中にスイスの特産品であるチーズやチョコレートを現地ならではの環境で堪能したいと考えていると思います。
スイス人からしても、スイスが世界に誇る絶品を食べてこそ、本当の意味でスイスを味わうと言えますので、スイス観光にチーズとチョコレートは絶対に欠かせません。
しかし、情報不足や言語の壁によって、旅行前にそれらを堪能する機会を組み込んだ計画を立てるのは簡単ではないと感じる方も少なくないため、結局「スイスに行ってから適当にどうにかする」という観光客が多いようです。
それも決して悪くはありませんが、可能であれば思い出に残るような体験をするのが望ましいので、選択肢のひとつとして皆様にチョコレートトレインをご提案させていただきました。
チョコレートトレインは特に鉄道マニアや甘い物好きな人に特化した内容ですが、全てが事前にアレンジされているので、スイスの特産品を合理的に楽しみたいという方も十分満足できます。
したがって、今後スイスに行かれるご予定があるようでしたら、是非チョコレートトレインに乗ることもご検討してみてください。
では
Bis zum nöchschte mal!
Birewegge
今回の対訳用語集
| 日本語 | 標準ドイツ語 | スイスドイツ語 |
| 梅 | Pflaume
(プフラウメ) |
Pfluume
(プフルーメ) |
| 積雪 | Schneedecke
(シュネーデッケ) |
Schneedecki
(シュネーデッキ) |
| 予約 | Reservierung
(レザーヴィールング) |
Reservation
(レセルヴァツィオーン) |
| 一等 | erste Klasse
(エアーステ・クラッセ) |
erschti Klass
(エルシュティ・クラス) |
| 乗車時間 | Fahrzeit
(ファーツァイト) |
Fahrziit
(ファールツィート) |
| 聴く | hören
(へーレン) |
lose
(ロセ) |
| 視る | sehen
(セーエン) |
luege
(ルエゲ) |
| 嗅ぐ | riechen
(リーヒェン) |
schmöcke
(シュメッケ) |
| 見学 | Besichtigung
(ベスィヒティグング) |
Bsichtigung
(プスィフティグング) |
| アウトレット | Werksverkauf
(ヴェアークスフェアーカウフ) |
Werchsverchauf
(ヴェルフスフェルハウフ) |
参考ホームページ
モントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道公式ホームページ:チョコレートトレイン Der Schokoladenzug
ラ・メゾン・デュ・グリュイエール公式ホームページ Die Maison du Gruyère | Käserei Besichtigung und Restaurant
ブロク市公式ホームページ https://www.broc.ch
カイエ公式ホームページ:メゾン・カイエ https://www.cailler.ch/de/besuche-maison-cailler

スイス生まれスイス育ち。チューリッヒ大学卒業後、日本を訪れた際に心を打たれ、日本に移住。趣味は観光地巡りとグルメツアー。好きな食べ物はラーメンとスイーツ。「ちょっと知りたいスイス」のブログを担当することになり、スイスの魅力をお伝えできればと思っておりますので皆様のご感想やご意見などをいただければ嬉しいです。

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