スイス最北端の都市シャフハウゼン

スイス北部を流れるライン川はほとんどの場所でドイツとスイスを分ける国境であるイメージが強いのですが、以前ご紹介したバーゼルのようにライン川を跨ぐ市町村も存在し、必ずしも川の南岸がスイスで北岸がドイツという訳ではないのです。

しかも、中には完全にライン川の北岸でありながらも実はスイスに属する地域もあります。

例えば、スイス最北端の州と呼ばれるシャフハウゼン州(Kanton Schaffhausen)がそのような代表例です。

したがって、今回はこのような地理的に珍しいシャフハウゼン州の州都であるシャフハウゼン市をご紹介したいと思います。

 

 

ライン川の積み替え港として生まれた交易都市

 

スイスでは多くの市町村がケルト民族の集落やローマ帝国の拠点から発展したにも拘らず、シャフハウゼンに関してはそういった痕跡は確認されていないため、西暦600年前後にアレマン人によって造られた農場が起源とされています。

その農場の少し南にあるライン川が浅瀬となっていることと、その先に滝があることから、次第にライン川を水路として利用する人々の積み替え場所として発展するようになりました。

そして、11世紀以降は農場の住民は徐々に減少し、川沿いに新たな町であるシャフハウゼンを築くようになり、交易拠点として栄え始めます。

また、1190年にはシャフハウゼンが帝国直轄領に指定され、町民に対して法的自治権の取得や納税義務からの解放などの権限が与えられますが、1330年には皇帝がシャフハウゼンをなんとハプスブルク家に譲渡する前代未聞の事態が発生します。

その約100年後には再び帝国直轄領の指定を受けますが、ドイツ南部とアイトゲノッセンシャフトに挟まれているシャフハウゼンは両者と友好関係を持ちつつも複雑な状況に置かれていました。

最終的に南ドイツの都市連盟に参加しながらもアイトゲノッセンシャフトに課された経済制裁に違反したことでシャフハウゼンは「法益剥奪」(Reichsacht)の刑に処されます。

この出来事によって南ドイツの都市連盟は支援を拒否し、ハプスブルク家はシャフハウゼンを再度支配下に置こうと試みます。味方を失ったシャフハウゼンはアイトゲノッセンシャフトに助けを求め、軍事同盟を結び、数カ月にわたってハプスブルク軍との衝突を繰り返したのです。

大敗を期した帝国のハプスブルク軍は1499年に和平交渉を呼びかけ、シャフハウゼンがアイトゲノッセンシャフトとの同盟を撤廃するよう要求しました。

しかし、当時のシャフハウゼン市長はそれに応じるどころか、アイトゲノッセンシャフトと永久同盟を結ぶことを宣言したため、シャフハウゼンは1501年に12番目の州としてアイトゲノッセンシャフトに加盟することになります。

 

砦に守られた城郭都市

 

このように、シャフハウゼン市はスイス連邦の一部でありながらも近世以降は自らを神聖ローマ帝国の脅威から守る必要もあったので、当初の旧市街は当然ながら城郭を建てることで防御を固めました。

他の都市と同様に、城郭は現在ほとんど残っていませんが、過去にそれが存在したことを示している現存品として、旧市街西部の出入り口であったオーバー門(Obertor)および北部のシュヴァーベン門(Schwabentor)が挙げられます。

さらに、敵による攻撃にいち早く対応するため、町の東の丘上にはなんと砦まで配備されました。

この砦はドイツ人画家であるアルブレヒト・デューラー(Albrecht Dürer)の設計を基に1546年に完成した円形要塞で、市民の間ではムノート(Munot)の名で親しまれています。

ムノートは鉄壁の防御として外部からの侵略を防いだだけでなく、修復はされたものの、一度も破壊されることがなかったため、現在も完全な状態で現存し、市のシンボルとなっております。

スイスの他の地域ではその名すら知られていないことも多いのですが、ムノートは市民の生活を守ってきた象徴として地元住民にとても愛されており、「ムノート」と名付けられた遊覧船や「ラジオ・ムノート」(Radio Munot)の名前を待つラジオ局が存在するほどです。

 

旧市街の東の丘上から町を見守る砦「ムノート」
旧市街の東の丘上から町を見守る砦「ムノート」

 

「出窓の町」

 

圧倒的な存在感を誇るムノートの影響もあり、シャフハウゼンは外から見れば中世ヨーロッパの城下町のような雰囲気を感じさせますが、旧市街に足を踏み入れるとその印象はガラッと変わります。

シャフハウゼンは南部にチューリッヒ州(Kanton Zürich)に隣接していることを除けば、州の9割以上の面積は昔からドイツに囲まれているので、その街並みも非常にドイツ風になっています。

とは言え、スイス連邦の一部になってから既に500年が経っているので、もちろんスイスっぽさもあり、両国の文化を上手く融合している町と表現した方が最も相応しいでしょう。

しかも、1372年の大火災および1944年に連合軍が誤ってシャフハウゼンを爆撃したことを除けば、旧市街は大きな災害に遭うことがなかったため、現在もルネサンス様式の建物で溢れています。

特に、ルネサンス様式の特徴とも言える出窓は、落下による事故防止を理由に他の都市では減少傾向にあるのですが、シャフハウゼン市では数百棟の民家で現在もその2階部分に取り付けられている様子を目にすることができます。それ故、シャフハウゼンは「出窓の町」とも呼ばれています。

 

シャフハウゼンを代表する出窓付きの建造物ハウス・ツム・リッター(Haus zum Ritter)
シャフハウゼンを代表する出窓付きの建造物ハウス・ツム・リッター(Haus zum Ritter)

 

自然と共存する緑と水の都

 

シャフハウゼン市の魅力はもちろんその街並みにあるのですが、市外を見渡すと緑に溢れていて、自然が豊かであることにも気づきます。

町から一歩外に出るとほぼすべての方角には森が広がり、統計を見ても市の面積の約半分は森林地帯となっていることが分かります。

さらに、シャフハウゼンはドイツから流れてくるドゥラッハ川(Durach)がライン川に合流する地点に建っているので、水の都としての要素も持っています。

古くから重要な水路として利用されてきたライン川は、前出のように、シャフハウゼンの少し南にラインファル(Rheinfall)と呼ばれる滝を形成しています。

したがって、東からやってくる全ての船はシャフハウゼンまでしか運航できず、乗客や貨物は陸路で滝の向こうまで行って、そこから別の船に乗る必要がありました。

このように地形の特徴を上手く活かして栄えたせいか、シャフハウゼンは今でも自然との共存を大切にしているのだと思います。

しかも、ラインファルは、スイスアルプスから湧き出て、複数の国々を流れながらオランダで海に出るライン川唯一の滝であるだけでなく、ヨーロッパ最大の滝でもあるので、シャフハウゼンは自然の名勝にも恵まれているのです。

 

 

シャフハウゼンに関するご紹介は如何でしたか?

日本人から見れば、小さな田舎町に過ぎないかもしれませんが、ご説明したように、風情ある可愛らしい街並みには史跡があり、自然豊かな周辺には名勝もあります。

そして、ムノートもまたお城好きの人にとっては一味違う興味深い建造物ですので、趣味を問わず全ての人に興味を持たれる要素を取り備えています。

そのため、シャフハウゼンに一度訪れるだけで、色々なものに触れて体験することが出来るのがこの町の最大の魅力です。また、チューリッヒから電車に乗って約1時間で行ける場所でありながらも、都会のゴチャゴチャした感じやビジネス街のように落ち着かない雰囲気が全くありません。

そのせいか、地元住民の性格もとても大らかでのんびりとしていますので観光には最適とも言える、まったりとした時間を過ごせます。

バラエティーが豊富な都市観光も悪くありませんが、旅の疲れを癒してくれるシャフハウゼンで静かな1日を過ごしてみませんか?

では

Bis zum nöchschte mal!

Birewegge


今回の対訳用語集

 

日本語 標準ドイツ語 スイスドイツ語
和平交渉 Friedensverhandlung

(フリーデンスフェアハンドルング)

Fridensverhandlig

(フリデンスフェルハンドリク)

Festung

(フェストゥング)

Feschtig

(フェシュティク)

Osten

(オステン)

Oschte

(オシュテ)

住民 Einwohner

(アインヴォーナー)

Iiwohner

(イーヴォーネル)

災害 Katastrophe

(カタストローフェ)

Kataschtrophe

(カタシュトローフェ)

出窓 Erker

(エアカー)

Erker

(エルケル)

落下する herunterfallen

(ヘルンターファレン)

abegheye

(アベケイエ)

grün

(グリューン)

grüen

(グリュエン)

森林地帯 Waldgebiet

(ヴァルトゲビート)

Waldgebiät

(ヴァルトゲビエト)

共存 Zusammenleben

(ツサンメンレーベン)

Zämäläbe

(ツェメレベ)


参考ホームページ

 

Comments

(1 Comment)

  • koji iwasaki

    10年以上前ですが、シャフハウゼンを訪れたことがあります。チューリヒから鉄道で行く際に一度、ドイツに入るのが印象的でした。

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